33「荒野に咲く雛菊のよう」
何のお店が良いでしょう。
ロボはともかくプックルが入れるお店はないでしょうね。大きいですから。
「そっすか。プックルは入れないんすか。じゃぁ別にお店じゃなくて良いっす」
『タロウ、気ニスルナ、プックル、草、食ベル』
タロウもプックルも優しいですね。
「一応、衛兵さんがおススメしてくれたお店なら店内には連れて入れませんが、プックル用の牧草があるそうなんでそちらにしましょうか」
「出来る衛兵さんっす!」
食事が済みました。
食事の感想についてはタロウとプックルに任せましょう。
「普通だったすねー。旨くも不味くもなかったっす」
『牧草、トテモ、旨カッタ』
どうやら牧草に力を入れているお店だったようですね。
では気を取り直してヤンテ様の家に向かいましょうか。
少し歩いて…………あ、赤い屋根の家、こちらですね。
ロップス殿が門前で待ってくれていました。衛兵さんから連絡があったんでしょうか。
「約束の日より一日早い到着だったな」
「ええ、色々ありましたが遅れずに着けました。ロップス殿も滞りなく?」
「慣れた道のりなのでな、五日前に着いた」
部屋の中から声が届きました。
「これロップス、見栄を張るんじゃありません! あなたが着いたのは二日前だったでしょう!」
三日もサバを読んだんですか。
しかもその見栄、張る意味はあるんでしょうか。
「母上! 余計な事を言わないでください!」
扉を開いてロップス殿のお母上が顔を見せま――
……なんと可憐な。
ガーベラのような派手派手しい花でなく、清楚でいじましいその様は、荒野に咲く雛菊のよう……
『ヴァン殿! しっかりするでござる!』
……はっ――ロボ? 僕は一体……?
「結婚してくださいっす!」
間髪入れずタロウが求婚しました。
そして間髪入れずロップス殿が殴りました。
殴り飛ばされたタロウがズザーっと滑って行きます。
「――はっ! 俺ってばどうしたんすか!? 痛えっ! ほっぺが痛えっす!」
タロウも無事そうですね。しかしこれは驚きました。妖精女王タイタニア様に勝るとも劣らない美しさです。
「母上! ですから人に会う際はマスクをお付け下さい!」
「しょうがないでしょう。私が悪いんじゃないの。私の美しさが悪いのよ」
あっけらかんと笑う笑顔も本当に美しい。
「ロップスさん! なんて可愛い母ちゃんなんすか! うっかり求婚してまうじゃないっすか!」
あれ?
「あれ? ロップスさんのお母さんっすよね?」
タロウも同じことを思っているようですね。
「若くないっすか?」
多く見積もってもせいぜい
「……母のヤンテ、三十二歳だ」
「息子と主人がお世話になっております」
深々とお辞儀をするヤンテ様、その仕草はまさしく母のそれでした。
「僕も正直驚きました。ロップス殿も人が悪い、先に言っておいて下さいよ」
「……母が若く美しいから覚悟せよ、とでも言えと言うのか?」
それは普通言いませんよね。
「確かにそうですね。失礼しました。しかしお若くてびっくりしました」
「体質らしくてな、私が物心ついた頃から見た目が変わらない」
「何? まだ私の話してるのかしら?」
ヤンテ様がお茶を淹れて来てくれました。
「いやホントお若くてお美しいっす。それがなんであんな竜の爺さ――ぺげらっ」
何が、ぺげらっ、ですか。
竜人族に殺されても文句も言えない内容っぽかったので、ヴァン先生の手刀が先に火を噴きました。竜人族の多く住むヴィッケルで不穏な発言は慎んで下さい。
「そうなのよ。全然歳をとらないから心配になって、二十歳前かな、アンセムの所へ調べてもらいに行ったのよ」
そこでタロウ並みの間髪入れずの求婚をされたんでしょうか。やりますねアンセム様。
「アンセムって千三百歳なのに可愛いとこいっぱいあってね。ま、良いかなってね。それでこの子が生まれたの。懐かしいわー」
タロウが復活しました。
「アンセムさんの奥さん口説いて死ぬとこだったっす」
本当にやめて下さいよ。洒落ですみませんから。
タロウが死んだらこの世界は来年には崩壊です。それがそんな理由だったら父にもアンセム様にも僕が殺されてしまいますよ。
「では母上、ヴァン殿と共に、このバカタロウをファネル様の下へ連れて行く使命を果たしに旅へ出ます。何卒、お体ご自愛ください」
「ロップス、その身よりもお務め、その気持ちでやりなさい。でも……出来る事なら死なずに戻りなさい。私も、アンセムも、貴方を愛していますよ」
そんな親子のやり取りを見つめます。歳をとると涙腺が緩んで……、ってタロウが滝のような涙を流してるんですが。
「タ――タロウ、そんなに泣かなくても」
「いや、なんかもうね、泣けちゃうっす。親もういないからっすかね、全然仲良くなかったんすけど、なんでっすかね」
グズグズといつまでも泣くタロウ。プックルが擦り寄って慰めています。
それを見たロボも僕に擦り寄ってきました。
そしてロボが僕の耳元で囁きます。
『……ヴァン殿の浮気もの……』
…………ち――ちがっ……!
いや、恋人も保留にしたはずでしょう、浮気とかそういうのでは……
ロボが少し離れたところで振り向いてこちらを見つめます。
ジッと沈黙。
「ち、違うんですよロボ! 誤解です! 僕は一般論としてヤンテ様が美しいという話をですね、僕の好みとかそういうのではなくね、ちょ、ちょっとロボ? 聞いてくださ――――」
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