31「プックルの過去」

 おはようございます。

 ヴァンです。

 夜明けが近づいています。


 昨日はマロウ撃退記念祭りで完全に一日潰れました。もちろん楽しかったので不満はありませんよ。


 みんなが起きる前にと思い、ソーっと物音を立てずに旅の支度を進めています。


 そんなにたくさんは持てませんからね、厳選して持って行こうと思うんです。

 次に向かうヴィッケルは四日程なので大した事ありませんが、ヴィッケルから先、ガゼル領に入ると町や村は疎らになります。

 山岳地帯に突入するので当然ですね。


 ヴィッケルで購入可能な物は持たずに出る方が良いでしょう。

 ロープや毛布などの生活必需品は既に持ち歩いているので、やはり戦闘向けの武器や道具、それに調味料を充実させましょう。


 父が置いて行った道具箱から、役に立ちそうで尚且なおか嵩張かさばらないものを選び出しました。


 あとは調味料です。

 少しでも楽しく料理したいですからね。塩以外にも、ビネガーやお酒などの液体は嵩張りますが、少量ずつ持って行きましょう。


 こんなものでしょうか。ひと通り揃いましたね。

 

『……ヴァン殿? 何してるでござるか?』


 ロボがベッドから降りて近づいて来ました。


「起こしてしまいましたか。少し旅の支度をしていました」

『そうでござるか。それがしも手伝うでござる』

「もう終わった所ですよ。ありがとう」


 あ、そうだ。さっき見つけたものをロボに渡しておきましょう。


「ロボ、これを」


 小指の先ほどの透明な石が中央についた、革のベルトをロボに見せます。


『なんでござるか?』

「父が作ったものなんですが、この石に魔力を籠めておけば見失ってもどこに行ったか分かる様にできる道具です。これを巻いておけば、はぐれた時にも、貴女に何かあっても、すぐに見つけられます」


 石に指を触れ、僕の魔力を籠めます。

 透明な石が、僕の魔力に反応して白へと色を変えていきました。

 ベルトをロボの首に巻きつけしっかりと留めました。


「どうです? きつかったり痛かったりしませんか?」

『特に違和感はござらん』


 そう言ったロボがトコトコと姿見の所まで歩き、鏡に全身を写して鏡の前で食い入る様に見つめています。


『なんと素敵な! これが噂のでござるな! 嬉しいでござる!』


 ……いや、あの、違うんですが……

 

 ま、まぁ良いでしょう。

 気に入ってくれた様ですし、水を差さなくても良いでしょう。



「ヴァンさん、ロボ、おはよー」

『ヴァン、ロボ、オハヨ』


 二人も起きてきましたね。


「あ! ロボ、良いのつけてるっす!」

『ふふん、良いでござろ?』

「婚約首輪っすかー。素敵じゃないっすか」

『そうでござろ! タロウ殿はお目が高いでござる!』


 本当に喜んで頂けて良かったです。

 それにしてもタロウ、貴方、覗いてたんじゃないでしょうね?





 朝食も済みました。

 では、ようやく出発です。


「ヴィッケルまでは街道に沿って行きますので、ロップス殿が言っていた通りに東へ三日、そこから北へ一日の行程で進みます」

「今回は森を抜けたりないんすね」

「予定通りに進めばありませんね。おそらく魔獣に出会う事もないでしょう」


 約束の十日まであと五日。あまり早く着いてもしょうがないので、普通に歩いて行きます。

 タロウもプックルから降りて歩きです。

 乗りっぱなしだと身体がなまりますしね。


「ロボ、疲れたら抱っこするので言って下さいね」

『平気でござるよ!』

「ヴァンさんってば、ロボの毛をモフモフしたいだけなんでしょー」


 失敬な! ――でも否定はしません。

 正直気持ち良いですからね、ロボの毛を撫でるのは。



 しばらく街道に沿って歩きます。

 タロウは時々思い出した様にマナツメを集めに街道を外れて、走って戻ってきます。

 少し高い所のはプックルが手伝っている様ですね。


「そういえば、魔獣も魔法使えるの居るって言ってたっすよね?」

「ええ、マトンの森を抜ける時に言いましたね」

「プックルも魔法使えるんすか?」


 そういえば聞いていませんね。


『使エル』


 マロウの長が使った、魔力を籠めた遠吠え、あれも魔法の内ですが、ああいう系統ですかね。


「見せて欲しいっす!」

『見たいでござる!』


 プックルが首を揺すって、やれやれ、という仕草です。


『見セル』

「お願っす!」


 大きく息を吸ったプックルが口を開きます。


『♪メェェエェェェェエエェェェ♪』


 プックルがメロディアスな鳴き声で、歌うように鳴きました。良い声ですねぇ――


 ――あ、これはダメなやつですね。安易に魔法を使わせたのは失敗でした。


「なんすか!? それ、魔法なん……す…………か……」


 あちゃー。

 タロウが眠りに落ちました。もちろんロボもです。


 タロウはプックルにもたれる形でスヤスヤと、ロボはそのまま地に伏してスヤスヤです。


「プックル、先になんの魔法か聞けば良かったですね」

『二人トモ、耐性、無サスギタ』


 タロウをプックルの背に腹這いに寝かせ、ロボを抱き抱えます。


 念願のモフモフだぜ! とか思ってないですからね。念のため。


 それにしてもプックルの魔法は魔力の使い方が面白いです。

 マロウの長の様に、鳴き声という「音」に魔力を籠めるのではなく、鳴き声で作った「音の波」に魔力を乗せている様ですね。


「眠らせる以外にも色んな使い方のありそうな魔法ですね」

『プックル、色々、デキル』


 精神感応だけでもレアなのに、パンチョ兄ちゃんは一体どこでプックルと知り合ったんでしょうね。


「プックルはどこの生まれなんですか?」

『プックル、昔ノコト、知ラナイ。ファネルノトコ、居タ。パンチョノトコ、来タ』


 そうなんですね。ファネル様からパンチョ兄ちゃんに譲られた形なんですか。


 じゃあ、プックルの過去はもう誰も分からないかも知れません。

 ファネル様はお気楽極楽ですから……。

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