30「マロウ撃退記念祭り」
「ところで、プックルは雄ですよね?」
少し長めの沈黙。
「何言ってんすか。どう見ても雌でしょ」
『プックル、雌』
何という事でしょう。
この数日間、ずっと一緒にいましたが分かりませんでした。
「プックルとタロウはどうなんですか?」
「プックルは俺のお母さんっす!」
『タロウ、プックルノ、子供』
そうですか。そういう関係もありますか。なるほどですね。
食事も用意したものは全て平らげてくれました。僕も久しぶりにお腹いっぱいです。
「タロウ、そんなこんなで僕の魔力はほぼ空っぽです。ロボと少し
「分かったっす! おやすみなさっす!」
食器はタロウが後片付けしてくれるそうなので、甘えさせていただきましょう。
ウトウトしていたロボを抱え、部屋に戻って寝みます。
おやすみなさい。
おはようございます。
ヴァンです。
昼過ぎに寝たはずなんですが、どうやら翌日の朝の様ですね。これではタロウ達の事をどうこう言えませんね。
タロウ達はどうしていたでしょうか。
メガネを掛けてロボを連れて家を出ると、爽やかな朝の空気が気持ちいいです。今日もお天気は崩れそうにないですね。
「あ、ヴァンさんおはようっす!」
『オハヨー』
「おはようございます。二人とも早起きですね」
『おはようでござる』
二人は昨日使ったテーブルの所に腰掛けていました。
「良く寝たから魔力もすっかり回復しましたよ」
「それは良かったっす!」
「お腹空いたでしょう? 直ぐに朝食の準備をしますね」
簡単に朝食を済ませ、昨日は何をしていたのかタロウ達に尋ねました。
「昨日あれから広場の方に行ったらっすね、プックルが人気者になっちゃって大変だったっす」
『タロウモ、人気者ダッタゾ』
「で、マロウ撃退記念祭りがあって、ご飯もいっぱい頂いたっす」
な――なんと? マロウ撃退記念祭りですって?
「あ、あの、撃退したのって僕とロボなんですが……」
「起こしに来たんすけどね、二人べったりくっついて寝てたんで……」
『後ハ、オ若イフタリニ、任セテ……』
『恥ずかしいでござる!』
顔を覆って恥ずかしがるロボ。
ま、まぁ、良いですけどね。村の人達も、怪我した人や見張りにと頑張っていましたしね。
「まぁそれは良いです。タロウ達の夕食が心配だっただけなので」
「すんませんっす」
『ヴァン、許セ』
そんな事より、そろそろ次の目的地を目指す相談をしなければなりません。
ロップス殿とヴィッテルで落ち合う約束の十日まであと六日。
普通に歩いて四日ほどの距離ですからもう少し余裕がありますが、早め早めの行動をしたいと思います。
「なので明日の朝にはペリメ村を立とうと思います」
「
『その旅というのは、どこを目指す旅なんでござるか?』
そういえばロボに何ひとつ説明していませんでした。掻い摘んで説明します。
『――そうだったでござるか。五英雄の結界の事は父から聞いて知っていたでござるが、タロウ殿にはそんな使命があったのでござるか』
「そうなんすよー」
『ただの軽い人族だと思っていたでござるよ』
まぁ、概ねそれで合っていますが。
「元々ペリメ村に立ち寄ったのは、旅に必要なお金と剣を取りに帰っただけだったんです」
『たまたまペリメ村に逃げて来て助かったでござる』
本当ですね。僕のいない時だったら大変な事になっていたかも知れませんね。それでもター村長がいるので、なんとかしてくれたでしょうけれど。
「剣ってなんすか?」
「タロウ達は見ていませんでしたね。ずいぶん前に父から貰ったんですが、大きいので普段は持ち歩いていなかったんです」
「見たいっす!」
そうですか? 特に変わった所のない剣ですが。
部屋へ取りに行き、タロウに手渡します。
「これですよ。大きいでしょう」
全長で僕の背より少し短いくらいです。
「あんまり剣とか刀とか見た事ないっすけど、テレビで見るのより大きいっすね。それに重たいんすねー」
てれび? 久しぶりにちょっと分かりませんね。
「どうしても魔力に不安がありますからね。魔力に頼らない戦い方も頭に入れておいた方が良いと思いまして」
「こんなん振り回せるんすか?」
「ダンピールは力持ちですから。タロウにも何か用意しましょうか? 小振りな剣もあったと思いますが」
「要らなっす! 前に買ってもらった杖で良いっす! 大きい刃物怖いっす!」
……杖?
ああ、最初にペリメ村を出る時に買ったアレですか。
「ずっとプックルに積んでただけなんで、すっかり忘れていましたよ」
明日からの予定などを相談していると、ター村長がのしのしとやってきました。
「ヴァン先生、おはようございます」
「おはようございますター村長」
「あの、実はですね……」
なんだか言いにくそうですね。ター村長には珍しいです。
「言いにくいんですが……」
「なんでしょう? 何でも仰って下さいね」
「実は……ヴァン先生とロボ殿がお寝みだった昨日にですね、マロウ撃退記念祭りをしてしまったんです! 最大の功労者が寝ている間に! 申し訳ない!」
ター村長は一気にそこまで話し、ガバっと地に頭をつけようとしましたがもちろん阻止です。
ター村長の膝が地に着く寸前に抱き留めました。さすがに重たいです。
「そんなこと全然構いませんよ。頑張ったのは僕らだけじゃありませんし」
「そうっすよ。ヴァンさんはそんな事で怒らないっす!」
タロウ、貴方は頑張って無かったじゃ……、いえ、癒しの魔法で頑張りましたか。
「タロウの言う通りです。怒りませんよ、そんな事で」
『それがしは逆でござる。村に迷惑を掛けて申し訳ないでござる』
そうなんですよね。怪我した人もいますから、原因になったロボを忌避する方もいるかも知れません。
「ロボ殿。それこそそんな事で怒るペリメ村一同ではありませんよ」
『いや、しかし……』
「今ペリメ村ではヴァン先生推しが一番多くて、その次がプックル殿、そしてロボ殿、次がピョンスです」
「あれ? 俺入ってないんすか?」
タロウが何か言ってますが放置です。
「ロボ殿が入っているのは、あの勇ましくも可愛いらしい遠吠えを村中のもの皆が聞いています。そしてピョンスが入っているのは、ロボ殿を助けたから株が上がっているんです。我がペリメ村一同は、断じてロボ殿を煙たがる様な事はありません!」
『……かたじけないでござる』
薄っすらと目に涙を貯めるロボ。
良い村でしょう、ペリメ村は。
「それでですね。昨日は前夜祭と言うことにしまして、本日もマロウ撃退記念祭りを開催する事になったんです。村一同の全会一致で」
え? 今日もお祭りなんですか?
「ヴァン先生もロボちゃんもいなくてマロウ撃退記念祭りと言えるか! というのが村人一同の意見でして、早速広場へ行きましょう! さぁ早く早く!」
厳つい熊顔のター村長に急き立てられて、広場へ急ぎます。
ロボも、タロウも、プックルも、もちろん僕も。
ペリメ村に暖かく受け入れられて、食べて踊って、楽しく過ごしました。
これからの旅を見据えて、たまにはこんな日があっても罰は当たらないでしょう?
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