29「今しばらくは」+
休憩も終え、ただいまペリメ村を目指して歩いています。
まだ疲れていますので慌てずゆっくりです。
それにしてもまさかロボが雌だったとは思いませんでした。
今は並んで歩いてますけどね、僕の足に体を寄せてくるので蹴り飛ばしそうで怖いです。
そうですか。雌ですか。
ま、今すぐ結論を出す事でもありませんからね。
「ロボ、お嫁さんの件ですが――」
『はいでござる!』
歩みを止めて硬直してしまいました。参りましたね。
しゃがんでロボの目線に合わせます。
「僕らはまだ出会って一日しか経っていません、そしてこれからは一緒に旅をする仲間です。さらに魔法を教える師匠と弟子の関係です。今しばらくは、そういう関係でどうでしょうか?」
少し沈黙。
『こ――恋人とゆうものがあるらしいでござるが……』
どこでそんな事覚えてくるんですか。貴女、森育ちの狼でしょう?
「それも保留ですね」
『そうでござるか……』
落ち込んでしまいましたね。
「……今しばらくは、ですよ。先の事は誰にも分かりませんからね」
また少し沈黙。
『はいでござる!』
狼なんで分かりにくいですが、恐らく輝くような笑顔で返事してくれた様に思います。可愛いですね。
夜が明け始めた頃、ようやくペリメ村が見えてきました。
みんな心配しているでしょうから、早く帰ってあげないといけませんね。
「ロボ、あと少しです。走りましょう!」
『承知でござる!』
……あまり速くないですね。タロウよりはかなり速いですが、プックルの半分くらいでしょうか。
まだ子供の狼ですからね。追い追い速くなるでしょう。
「ロボ、おいで!」
『はいでござる!』
僕の胸に飛び込んで来たロボを受け止め右腕で抱っこ、そしてそのままペリメ村まで走ります。
ロボの毛の手触りは、本当に気持ち良いですね。
「ヴァン先生! ご無事でしたか!」
ター村長が出迎えてくれました。きっと夜通し起きて待ってくれていたんですね。
「村の者にはまだ外に出ないように伝えています」
「もう大丈夫です。マロウの長との話し合いも上手くいきました」
前の長とは殴り合って、話し合ったのは新しい長とですが敢えて言わなくても良いでしょう。
「さすがヴァン先生!」
「ただ、村の西の外れに二十頭ほどのマロウの死体を放置したままです」
「そんなものは私が片付けておきます。なんの問題もありませんよ」
確か村の中では戦いませんでしたよね? あれ、どうだったかな。牽制で魔法は使った気がしますが。
「もしかしたら広場から西にかけて、村の中にもあるかも知れません」
「お安い御用です。では先生、村の者にも危機は去ったと伝えて参ります。本当にありがとうございました」
ター村長が深々と腰を折ってお礼を言ってくれました。僕もここの住人ですからね、当然の事です。
ようやく自宅に近付きました。そろそろタロウとプックルが迎えに来てくれるでしょうか。
「一人で何やってんすか!」とか、『プックルニモ、頼レ』とか、言われちゃうかも知れませんね。
……――あれ? 普通に玄関ドアまで辿り着きましたけど。
――あれ? ドアを開けても反応がありませんが……。
ロボと顔を見合わせて首を捻ります。
は! まさか!
慌ててタロウ達が使っていた部屋に飛び込みます。
なんて事でしょう。不安が的中してしまいました。
棺桶の上に前脚を乗せたプックルが、ベッドの上のタロウのお腹に頭を乗せていました。
昨日の夜から全く動いていません。
いや、良いんですけどね、二人だって疲れていますよね。ただ昨日の昼前から寝てますから、いい加減に起きてると思っていました。
そうです、僕の一人合点なのでタロウ達はひとつも悪くないんです。
でもね、結構厳しい戦いだったのでね、ちょっと
「ロボ、僕は今から好きなだけ料理を作ります。ですからロボは寝て下さい」
『ヴァン殿は寝なくて良いでござるか? それがしはヴァン殿とベッドで寝たいでござ――』
「ロボと寝たくない訳ではありませんが、今は料理を作りたい気持ちなんです」
少しの沈黙。
『……見ていてはダメでござるか?』
本当に可愛い狼ですね。
「良いですよ。ただし集中すると話しかけても返事をしないかも知れません。気を悪くしないで下さいね」
昼食を作りましょう。
まだ夜明けから間もないので時間はたっぷりあります。
粉にイースト、塩、砂糖を入れて混ぜ、充分に捏ねます。塩とイーストが直接触れない様に入れるのがコツですね。
充分に捏ねたら濡れ布巾を被せて暫く置いておきます。今の気温なら割りと長めに置く必要がありますね。
お茶を入れ、少しだけ腰を下ろしてひと息入れます。その間、ロボの背を撫でて過ごします。
「ロボ、少しお店を回りますが、一緒に行きますか?」
『勿論でござる!』
ロボを連れ、お店をいくつか回ります。早朝なので酒屋さんは開いてませんでしたが、声を掛けて売って頂きました。
玉ねぎや人参などを粗く刻み、マトンの肉や骨などと一緒に煮込んでスープを作ります。
これをしばらく煮込んでいる間に、先ほど濡れ布巾で覆った生地をガス抜きしてから切り分けます。成形して、また濡れ布巾で覆って寝かせます。二次発酵ですね。
別の鍋でバターと粉をゆっくりと、茶色く焦げがつくように炒めます。これに先ほど煮込んでおいたスープを足して伸ばし、トマトとブドウ酒を加え煮込みます。
これでソースは完成ですね。
マトンと牛の肉を包丁で叩き混ぜ合わせます。残念ながら牛の魔獣の肉は売っていませんでした。アンセム領ではマギュウは珍しいですからしょうがないですね。
微塵切りにした玉ねぎと、数種類のキノコも刻み、混ぜて捏ねましょう。
形を整えて少し置いておいて、二次発酵の方の様子を見ます。
いい感じですね。こちらも仕上げて窯へ入れて焼き上げましょう。
フライパンに成形した肉を入れて焼きます。
肉が焼ける香ばしい香りと、パンの焼ける良い匂いが辺りに広がります。
ウトウトしていたロボが目を覚ましましたね。
『ヴァン殿? 疲れてるのにずっと作ってたでござるか?』
「ええ、楽しいですから平気です」
どうやらタロウ達も起きた様ですね。
「ロボ、タロウとプックルにも声を掛けて来て貰えますか? 昼食にしましょう」
◇◆◇◆◇
29.5「ヴァン:成るように成る」
昼食の準備が整いました。
プックルが大きいので家の外の、丸太で作ったテーブルを使いましょうか。
「ヴァンさん、おはようっす!」
『オハヨー』
丸一日寝ていた二人も起きてきましたね。
あ、そういえばロボに玉ねぎはダメだったんじゃないでしょうか。犬に玉ねぎは厳禁ですが、狼も似た様なものですよね。
ウッカリしていました。
『玉ねぎでござるか? 普通に食べてたでござるが、ダメだったでござるか?』
大丈夫だそうです。ホッとしました。
「うっわ! なんなんすかこのご馳走は! パンも焼き立て!」
「パン焼きは僕の一番の趣味。マトンのベーコンを使ったベーコンエピが自信作です」
さぁ、食べましょう。
僕とタロウは丸太を切っただけの椅子に腰掛け、プックルはタロウの隣、ロボは僕の膝の上です。
「旨いっす! ベーコンエピもマトンハンバーグもサイッコーに旨いっす!」
『ウ、メェェエェェェ!』
『美味しいでござる! ヴァン殿は最高のお婿さんになるでござる!』
みんなに褒めてもらって正直嬉しいです。やはり料理は食べてくれる人がいてこそですね。
「ねぇヴァンさん、この白いパンちょっと炙ってもらっても良いっすか? これでハンバーグのソース掬って食べたら最高に旨いと思うんす」
「すみません、魔力はほぼ空っぽなんです。料理で使った火の魔法が本当の最後の魔力でした」
少し沈黙。
「なんかあったんすか?」
丸一日寝てましたからね、知らなくて当然ですね。
『ヴァン殿は本っ当に強くカッコよく、そして優しかったでござる!』
ロボが昨夜の事を二人に説明してくれました。
やや脚色と美化が散見されましたが、まぁ、概ね合っていますので良いでしょう。
少し美化されすぎで照れてしまいますね。
「そんな事があったんすか……。全く気がつかなかったっす。なんかすんません」
「夜目の利く僕とロボの二人が良いと思いましたので起こさなかったんです」
「で、何でそんなに二人べったりくっついてんすか?」
あ、知らない内に、僕にくっつくロボの背を撫でていました。あまりにも手触りが良いのでつい。
『それがし、ヴァン殿のお嫁さんに立候補したでござる!』
あ――あっさり発表してしまいました。
いや、隠すつもりではなかったんですが、冷やかされないか不安なんですが。
「そっすかー。良いじゃないすか、銀髪のダンピールと、白い毛のレイロウ、お似合いっす!」
おぉ、タロウの器が大きく見えます。異種族婚に抵抗とかないんでしょうか。
「タロウ、貴方もしかして、ロボが雌なの知ってたんですか?」
「え? 当たり前ですやん。見たら分かるっしょ?」
見たら分かるんですか。恐るべきはタロウの眼力。
『ヴァン殿、お似合いと言われたでござる』
より一層、体を密着させるロボ。
いや、これは、ちょっとヴァン先生困ってしまいます。
けれど、そう悪い気もしませんね。
これはもう、成るように成る、ですかね。
〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜◯〜
ヒロイン爆誕!
やっと! 遅い!
本作はカクヨムコン🔟に参加しております。
ヒロイン爆誕記念に、☆☆☆を★★★へと変えて頂ければ幸いにございます٩( ᐛ )و
今後もヴァンさん一味の旅を応援お願い致します
\\\\٩( 'ω' )و ////
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