27「まずは話し合いからかと」
おそようございます。ヴァンです。
外はすっかり夜ですね。はっきり言って寝過ぎました。ですがお陰で魔力もほぼ全快です。
「ガウ」
ロボはまだ寝ぼけていますね。素の声を初めて聞きましたが、なかなか可愛い声ですね。
「ロボ、僕は少し出てきますが、貴方はもう少し寝ていますか?」
「ガウ……、ガ、ウ……、そ、それがしもお供するでござる!』
プックルじゃないですが、やはりどの生き物も子供は可愛いですね。父性本能がくすぐられます。
「では一緒に行きましょうか」
ロボだけを連れて外に出ます。
タロウの部屋も覗いてみましたが、父の棺桶に前脚を乗せたプックルが、タロウのお腹の上に頭を乗せて寝ていました。
獣はお腹の上が好きなんでしょうか。
家から少し歩いた所で思い出しました。やはりウッカリが酷い気がしますね。
「ロボ、忘れ物をしました。すみませんが一度戻りますね」
僕の部屋で少し探し物です。確かここら辺りにしまっておいたと思うんですが――あ、ありましたね。
「錆び付いてないと良いんですが」
僕が手にしたのは大振りな片刃の剣です。
抜いてみましたが大丈夫そうですね。刃の輝きに曇りはありません。
両刃の剣って、自分も切れそうであんまり好きじゃないんですよ。
かなり昔に父から譲り受けたもので、相当良いものだそうですが、銘など細かい事は分かりません。
父が覚えていなかったので。
ちなみに父は、母に『良く似合う』と言われた、これよりかなり質の劣る剣を愛用していました。
母にべた惚れでしたからね。
『ヴァン殿は剣も使うでござるか?』
「少しですけどね。訳あって魔力に多少の不安がありますから、用心の為にね』
腰に
「これで良し。お待たせしました。改めて行きましょうか」
広場まで並んで歩きます。
星明かりだけなので相当暗いですが、僕は夜目が利きますので平気です。
「暗いですが平気ですか?」
『それがしは狼、暗い内に入らないでござる』
広場に近づくと篝火のお陰で明るいですが、篝火に照らされたター村長の熊顔が物凄く凶暴に見えますね。
遅くまでの警戒、ご苦労様です。
「ヴァン先生、もうよろしいのですか? あ、それは昼間の狼の子供!」
「ええ、教会に隠れていました。やはりマロウの襲撃はこの子を狙っての事だった様です」
ター村長に簡単に説明しました。
狼王であるロボの父が死に、次代の王たるロボがマロウに命を狙われていると簡潔に。
『大変ご迷惑をお掛けしたでござる。誠に申し訳ないでござる』
ロボもちゃんと謝りましたね。偉いです。
「そうですか。しかしどうしましょう? このまま匿うのも難しいですが、悪しきマロウが王となるのも黙って見過ごす事もできないですし」
さすがター村長。村の事もロボの事もどちらも心配してくれています。
「ええ、ですので――これから僕が行ってこようと思います」
「行くと言いますと?」
「マロウの群れの所です。まずは話し合いからかと」
『話して聞く相手ではござらん!』
そうかも知れませんが、まぁ、その時はその時です。
不意に村人の声が響き渡りました。
「ター村長! マロウです!」
「来たか! 迎え撃つぞ!」
「いえ。ここは僕に任せて皆さんは家に入って隠れて下さい」
「しかし! それではヴァン先生の負担が……」
心から心配してくれているのが伝わって、胸がジンワリ来ますね。
「大丈夫です。僕に任せて」
片目を瞑ってニッコリ笑顔で伝えると、ター村長も安心してくれた様ですね。
「……分かりました。絶対に無理をしてはいけませんよ」
大きな声で村人に建物に入るように指示を飛ばすター村長を見送って、ロボに耳打ちします。
「ロボ、貴方は僕が守ります。すみませんが一緒に
『もちろんでござる! この村にこれ以上迷惑を掛けたくないでござる!』
「ではよろしくお願いします」
左手でロボを胸に抱え、風の魔法を併用しつつ全力で跳び上がります。かなり高く跳んだ所で光の魔法を使い、周囲を照らしました。
僕を中心に村全体がボンヤリ明るくなり、眼下にマロウが数頭確認できました。何頭かはすでに村に入り込んでいますね。
「ロボ、全力で吠えて下さい」
『承知でござる』
「うわぉぉぉぉぉん!!」
光が消える前にマロウがこちらを確認しましたね。
では地上に降りて場所を移しましょう。
上から見た感じだと、村の西側から侵入したようなので
「ロボ、しばらくは僕の胸に入っていて下さい」
『承知でござる』
僕のローブはゆったりしていますからね、ロボを胸元に入れても動きに影響はなさそうです。
マロウをおびき寄せながら西から村を出ましょうか。
向かってくるマロウに風の刃を飛ばします。走りながらですし暗いしでちっとも当たりませんが、牽制ですので構いません。
そのまま走り村を出ました。
村から少し離れた所で止まり、背から大剣を抜きます。
追いついて来たマロウと、村の外に居たマロウと、併せて二十二頭。囲まれました。
ちょっと多いですね。二頭だけ残しましょうか。
突っ込んできたマロウを横薙ぎに斬りはらいます。
上顎と下顎の間を斬り裂き、そのまま直進する頭部のないマロウの体を躱し、囲いの一角へ突入します。
怯んだマロウを斬り伏せ、同時に飛び込んできた数頭を、風の刃の障壁で切り刻みます。前にタロウがやっていた要領ですね。
この要領でどんどんマロウを減らしていきます。これ凄い楽ですね。戻ったらタロウにお礼を言いましょうか。
剣のお陰で魔力も節約できています。重たいのをわざわざ持って来た甲斐がありますね。
残り三頭になった所でマロウが一斉に西へ向かって逃げ出しました。
あ、予定より一頭多く残してしまいましたが、まぁ、誤差範囲ですね。
「ロボ、あちらがマロウの住処ですか?」
『それがしらと同じ森なので方向はそうでござる。詳しい場所までは分からぬでござるが』
大丈夫、その為に残したんですから。
「追いかけます。そのまま入っていて下さいね」
三頭のマロウに気付かれない様に追いかけます。少し木々が増えてきました。
前方に見える森の中に逃げ込まれるとさすがに見失いそうですね。
森の少し手前で止まり、ひと息つきます。
「さてと、じゃあまた吠えて貰えますか?」
『……ここで吠えたら一斉に襲ってくるのでは……』
来るでしょうね。でも森で襲われるより絶対に良いです。
「大丈夫。僕はマロウよりも断然強いです」
『承知でござる!』
「うわぉぉぉぉぉん!!」
…………さすがのヴァン先生もちょっと引きました。
森からこちらを見つめる目の数が凄いです。百頭ではききませんね。
ロボが息を飲むのが聞こえました。
これはちょっと――失敗したでしょうか。
一斉に襲われたら無傷では済みません。
魔力が続く限り、風の刃の障壁で持ち堪えるか、いけるところまで剣のみで戦うか。
負けはしないと思いますが、どちらもやりたくないですね。
どうしようかと考えていたら、マロウ達に動きがありました。
多数の目はそのままに、それよりも高い所に光る二つの目が現れました。
「ロボ、彼らも精神感応で会話できますか?」
『普通のマロウ達は知らぬでござるが、長はできるでござる』
そうですか。では話し合いから、ですね。
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