25「マロウ襲来」

 鍋もテントも片付けました。

 これはタロウとプックルも手伝ってくれて助かりますね。基本的に良い子たちなんです。


「では出発いたしましょう」


 走らなくても昼頃にはペリメ村に着くでしょう。今日はター村長の所に顔を出すだけで、あとはのんびりしましょうか。


「ねぇ、ヴァンさん」

「なんですか?」

「彼女とか居ないんすか?」


 唐突ですね。しかも直球です。


「ヴァンさんて、男前で優しくて、料理も作れて魔法も使える。モテモテっしょ?」


 男前なんですか? あまり意識した事なかったですね。


「そうですね。今はいません」

「昔は?」

「いた頃もありますよ。なにせ長生きですから」


 もうかなり前ですが。


「その彼女は今は?」

いらっしゃるとか」


 少し沈黙。


「そうなっちゃうんすかー」

「人族でしたからね。こればっかりはどうしようもないです」

「そう言えば、ヴァンさんは魔族だから長生きなんすか? 吸血鬼だから?」

「吸血鬼というのは能力から付けられた種族名ですからね。どちらかと言えば、魔族だから、ですかね」


 魔族の血縁、特に真祖に近ければ近いほど寿命が延びてしまうんですよ。魔力量が多いせいだと言われていますが、父と違って僕の魔力量は言うほど大したことないんですけどね。


 そういうものっすかー、と呑気に呟くタロウ。


「タロウも他人事ではないかもしれませんよ」

「何がっすか?」

「寿命ですよ。タロウも長生きになる可能性が大きいです」


「俺が? なんで? 竜の因子あっても特に変わらんってアンセムさんが……」

「この世界で寿命が長い種族は、大抵魔力量が多いんです。だから人族にしては異常な魔力量を持つ筈のタロウの寿命は相当に長くなるかもしれませんよ」


「……二百年とか三百年とか?」

「あり得ない話ではありません」


 思い悩んでいますね。サラッと話す事ではなかったでしょうか。しかし今更、ウッソでーす、とは言えませんし。キャラ的にも。


「タロウ? そう悲観的にならなくても……」

「……そんなに長いことゴロゴロしてて良いんすか……」


「楽観的すぎー!」


 あ、久しぶりにタロウが伝染うつってしまいました。失礼。


「さすがはタロウですね。お見それしました」


 さぁ、もうペリメ村が見えて来ましたよ。


 村の入り口にター村長がいらっしゃいます。

 どうしたんでしょうか。なんだか物々しいですが。


「ヴァン先生! 大変なんです! 急いでこちらへ!」


 いつも冷静なター村長がこんなに慌てる事はありません。急いで後を追いかけます。


 ター村長について行った先は、先日ター村長VS熊の戦いのあった広場です。

 広場には傷ついた村人たちが数人横たわっていました。あの兎の獣人も、人族も、併せて七人ほど。


「ター村長、一体何があったんですか!?」

「マロウの群れに襲われたんです!」


 とにかく魔法で癒していきます。不調などと呑気な事は言っていられません。


「タロウ、あなたにも魔力を移します。手分けしましょう!」

「わ、分かったっす! 治療の魔法ってどうやるんか教えて下さいっす!」


 タロウに簡単に説明します。

 癒しの魔法とは、太陽の魔法と水の魔法を併せて使う複合魔法。けれど、傷が自然に回復するのを促す程度の事しかできません。なので致命傷や部位欠損に対してはお手上げです。

 幸いそこまで酷い怪我人は居らず、僕とタロウで手分けすればなんとかなりそうです。




「ふぅ。なんとか手遅れにならずに済みましたね」

「あ、みんな助かったすか?」


『タロウモ、ヴァンモ、良クヤッタ』

「タロウ、お疲れ様です」

「俺は自分の魔力じゃないすから全然平気っす」


 それでも魔法は集中力が必要ですからね、タロウも疲れた顔をしています。


「ヴァンさん、いつも以上に顔色が悪いっすよ」


 はっきり言って僕も疲れました。疲労と言うより魔力の枯渇によるものですが。

 

「ヴァン先生、タロウ殿、ありがとうございます。お二人が遅れていたら間に合わなかったかも知れません」


 それにしてもマロウが村を襲うなど、そうある事ではありません。一体なにがあったのでしょうか。


「今朝の事です。ピョンスが朝の見回りから血相を変えて戻りまして、あぁ、ピョンスというのは、先ほどの怪我人の中にいた兎の獣人なんですが」

「あの小さい兎、ピョンスって言うんすね」


「ピョンスは足も早く、耳の良さを活かして村の見回りをしてくれているんです。今朝の見回りで、飢えた白い毛の狼の子供を保護して連れ戻ったんですが、その後しばらくして村の周囲にマロウが現れたのです」

「兎が狼助けたんすか。男前っすねぇピョンスさん」


 ター村長とピョンス殿に、獣人数名を含めた屈強な村人十数人、総勢二十名ほどでマロウの撃退に成功したそうですが、全員無傷とはいかなかったと。


「その狼の子供はどちらに?」

「マロウが来る前からどこに行ったか、誰も気付かなくて……」

「そうですか」


 狼の子供とマロウの襲撃との因果関係が気になりますね。無関係とは考えにくいです。


「警戒は引き続き行います。ヴァン先生とタロウ殿もお疲れでしょう。休んで下さい」


 本当は僕も警戒に加わった方が良いんですが、ちょっと魔力的に限界です。少し休ませていただきましょう。


「すみません、少し家で休みます。何かあれば急いで戻りますので呼んでください」


 プックルにタロウを乗せて自宅へと向かいます。ほんの数日しか離れていなかったのに久しぶりな気がしますね。


「タロウ、ぶっつけ本番でしたのに上手に使えてましたね、癒しの魔法」

「いや、ホントっす。上手く出来て良かったっす。けど凄いっすね、癒し魔法。傷んとこがブクブク言ってちょっとずつ治ってくのビックリしたっす」


 実は魔法元素の複合は割りと難しいんですよ。タロウなら出来ると思ったんでお願いしたんですけど、思っていた以上でしたね。


「疲れよりも、あの生々しい傷痕を直視するのがキツかったっす」

「タロウの世界ではあんまり見ませんか?」

「いやー、見るとこでは見ると思うんすけど、事故とかケンカとかとは無縁の生活だったっすから」


 それでもキチンとやれてました。ちゃらんぽらんに見えますが、他人に対しての責任感がしっかり感じられます。



 久しぶりの我が家が見えて来ました。


「あれ? 教会の窓、あそこ開いてるっすよ?」


 本当ですね。キチンと戸締りしたハズですが。

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