24「まだいたパンチョ」+

「おう。戻ったか二人とも」


 あれ? まだ居たんですかパンチョ兄ちゃん。


「まだいらっしゃったんですか?」

「うむ。もう旅に出てるはずだったんだがな。手間がもう、凄いんだわ」

「手間ですか?」


 もうウンザリという顔ですね。


「曲がりなりにも貴族なんでな。この屋敷の使用人の給金や税金、旅先で死んだ際の相続やらなんやら書類だらけだ」

「サバスさんにお任せじゃダメなんすか?」

「ダメなんだと。子供でもおればまた違うらしいんだが、あいにく独り身なんでな」


 なぜかタロウがパンチョ兄ちゃんに握手を求めました。どこに共感したんでしょう。恐らくは、独り身、のところでしょうね。僕も独り身ですよ。


「幸い貯えは無駄にたくさんあるから書類さえ済ませば問題はないんだが。これがまた進まんのだ。つまらんから」


 僕はそういう事を全くした事がないので分かりませんが、出来るならやりたくないです。


「今夜は泊まって行くんであろう?」

「えぇ、そのつもりでサバスさんにお願いしました」

「よし。じゃぁ我も休憩だ。夕食を共にしよう」




 夕食の時に色々と情報交換しました。

 タロウですか?

 タロウは特に会話に参加していません。ウメー、とかウマーとか言っては、サバスさんに何の料理か尋ねたりに終始していました。


 アンセム様の説明の内容、ファネル様の寿命がおよそ一年、その間に五英雄の皆さまから認められる必要がある事などですね。

 他にはこれからの僕らの行き先、タロウの魔力や竜の因子についてなどです。


 パンチョ兄ちゃんは先日仰っておられた通り、書類作業が終わり次第、真っ直ぐにファネル様の下へ向かうとの事。

 真っ直ぐと言っても、アンタニア海が西からせり出していますので、やや東向きに北上し、海を迂回しながらの北上です。


 次にお会いするのはファネル様の所になるでしょうか。


「タロウよ、プックルは速かろう」

「もう速いなんてもんじゃないっす。あのモフモフした時の速さったらあり得ん速さっす」

「……モフモフとな?」

「はい、モフモフっす」


 こちらを見るパンチョ兄ちゃん。分かりませんよね、タロウの説明じゃ。僕から簡単に説明しました。


「なんと。そんな事でさらに速くなったとは……」


 ご存知なかったですか。

 まぁ、丸顔ですが見た目はいかつい老騎士のパンチョ兄ちゃんがプックルをモフモフしてる様子はイメージが湧きませんね。


「そういやプックルのご飯は?」

「心配いらん。ちゃんとサバスが手配しておる」

「そっすか。さすがサバスさんす」



 今夜は久しぶりにベッドで寝られますね。





「では、パンチョ様、サバス殿、お世話になりました」

「ご馳走さまっす!」

『パンチョ、マタナ』


「おぅ、気をつけてな。ではファネル様の所でまた」


 お土産ではないですが、携行食まで用意して頂きました。宿代と買い物代が浮きましたね。


 ではとりあえずペリメ村を目指します。


「ペリメ村に用事っすか?」


 特別大した用事はありませんが、タロウとロップス殿の食費を考えると、手持ちでは路銀が不安です。

 それにもう少し旅の準備を整えたいのです。


 来る時には三日ほどの道のり、帰りは街道を通りますがプックルのお陰で半分ほどで帰れるでしょう。


「プックル〜、これからも頼むっす」

『任セロ』


 今回はずっと街道を走ります。

 たまにタロウがプックルに乗ったまま街道を逸れては戻りしています。

 プックルの足が速いので僕から遅れる事はありませんが、一体なんでしょう?


「ヴァンさん見て見て。これマナツメっしょ?」


 タロウが集めた果実を披露しました。服のお腹辺りを裏返した所にギッシリです。


「よく覚えていましたね。全てマナツメですね」

「確か魔力の回復に良いんすよね?」


「そうです。今のタロウや僕にもってこいです」

「みんなで囓りながら行くっす!」


 小振りなリンゴくらいのサイズのマナツメを齧りながら行きます。

 良いですね。僅かとは言え魔力が回復するのが分かります。仄かな甘みと強めの酸味が疲労回復にも良さそうですね。


 マトンに出会った森を、迂回する様に街道を行きます。


 ペリメ村から数えて二つ目の林を抜けた所で日がずいぶん落ちました。今夜はここで野営しましょうか。明日の昼にはペリメ村に着きそうですね。


「タロウ、今夜はここで休みましょう。夕食の準備などしますのでのんびりしていて下さい」


 サバス殿から頂いた携行食で夕食です。簡単ですね。


「食事が済んだらタロウとプックルは休んで下さい。僕はちょっと森へ行ってきます」

「マトンの森っすか?」


 マトンの森。割りと便利な名前ですね。今までは、アンセムの街の北の森、でしたからね。長くて面倒でした。


「そうです。ちょっとマトンを仕留めてきます」

「一人で平気なんすか?」


「まぁ、一人の方が平気と言いますか……」

「……そうすねー」



 マトンの森へ急ぎます。プックルが居るとは言え、やはりタロウを一人で置いてきたのは不安ですからね。


 速やかにマトンを一頭仕留めました。マトンは突進してきてくれるので魔力が節約できて助かります。

 少し小振りですので一人で担いで運べそうですね。


「あ、ヴァンさんおかえんなさい」

『オカエリ』

「起きてたんですか二人とも」


 やはり怖かったでしょうか?


「ヴァンさん心配で寝れなかったっす」


 僕の心配でしたか。誰かに心配された事も久しくありません。悪い気はしませんね。


「それはすみませんでした。大丈夫、傷一つ負っていません。ただ、少し疲れました」


 小振りとは言え、マトンはやはり重かったです。血抜きは済ませてありますのでとりあえず凍らせて、明朝に解体しましょう。


「すみません、お待たせしました。休みましょう」





◇◆◇◆◇


24.5「ヴァン:愚痴」


 おはようございます。

 ヴァンです。


 今朝はマロウに囲まれる事もなく早起きできました。

 先ほどようやくマトンの解体が済みまして、これから小分けして冷凍作業です。


 僕って割りとマメなんです。自分でもそう思ってしまいます。

 色々あって新たな生け贄としてタロウを連れて旅に出てるんですけどね。自分には特別必要のない食糧の確保と下準備、さらに調理まで。


 はっきり言って面倒です。


 でも、僕しかタロウを連れて行けない、というのも分かります。

 この世界の実力と能力の点において、上から数えた五人が動けません。五人を除けば、こんな僕でも相当強い部類に入るんです。


 さらに五英雄の全てと面識があって、五英雄の居所全てを訪れた事があるのは、きっと僕だけです。


 だから、まぁ、不満はありません。


 でも面倒ですよね。


 料理も食事も、趣味としては楽しいんですけど、野営だと料理って感じでもないですし。



 冷凍作業も済みました。


 新鮮なマトンの肉を使ってスープでも作りましょう。焼いた肉ばかりでは作るのも楽しくないですからね。


 火の魔法で火を熾します。

 鍋を温めて、塩を振って少し置いておいたマトン肉を一口大に切り分けて火を通します。

 火が通ったら、さらに水の魔法で鍋に水を張ります。

 数種類のキノコもドサッと入れて一緒に煮ます。水が冷たい内に入れるとね、たっぷりのキノコから出汁も取れるんですよ。

 塩胡椒で味を整えてコトコトと煮込み、隠し味にマナツメの果汁を少々。


 ストレス発散には料理が一番ですね。もう少し手の込んだ物を作りたいですが、ここではこの程度が限界です。


 良い香りがしてきた所でタロウとプックルがモゾモゾし始めました。



「ヴァンさん、おはようっす。それ朝ごはんすか?」

『オハヨ、ヴァン』


「えぇ、ちょうど良い頃合いです。朝食にしましょうか」

「おす!」




「これめちゃくちゃ美味いっす! 美味いっすよヴァンさん! 天才かも! いやこれは天才っすわ! ウマー!」

『ウメェエェェ』


 プックルは熱い物も平気なんですね。


 まぁ、面倒でも、楽しいので良しとしましょうか。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇

次回から新展開!

ちょっとずつ動き見せていきます!

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