21「仲間入り」+

 タロウが少し青い顔をしています。そういえば、こちらに来た当初は素が青白い顔でしたが、ここの所は健康的な顔色ですね。

 それこそしっかり食べているからでしょうね。


「心配するなタロウよ。ファネルの後釜の生け贄となるまでおよそ一年だ。それまでには余裕で魔力量も満ちる。竜の因子のお陰で、すなわち私のお陰でな」

「そっすね! 魔力が空っぽにならなきゃ良いんすもんね!」


 タロウもお気楽極楽です。でもそれがタロウの良いところでしょう。


「そういえば、俺の世界では一年って365日なんすけど、こっちはどれくらいなんすか?」

「タロウの世界は長いんですね。こちらでは275日です。十月とつきで割って、偶数月は二十七日、奇数月は二十八日です」


「ちなみに今は何月っすか?」

「二月の頭ですね」


「じゃぁ来年の一月中に行けば良いんすね」

「一応は年内に着くべきだな。ファネルの寿命は、大体一年、と聞いている」


 余裕がありそうでなさそうな、微妙なところですね。単純に距離だけ考えれば充分なんですが。


「年内って聞くと何故か慌てるっすね」


 タロウも同じような事を考えていましたか。


「それでな。ヴァンよ、お主の魔力は変わりないか?」


 さすがアンセム様。お気付きでしたか。


「はい。正直なところ、不調です。今すぐにどうこうという事はありませんが、絶不調ですね」

「やはりな。どうもボンヤリしてる様子があるのでな」

「魔法を使わなくても回復量以上に消費しています。回復量をやや上回る程度ですので、ひと晩眠ればほとんど回復してはいますが」


 ふむん、と腕を組んで考えるアンセム様。


「やはりブラムの眠りに伴う物であろうな」

「アンセム様もそう思われますか」


 他に理由が考えられません。タロウがこちらに来た日、あれからずっとですから。


「異世界からの強制転移で相当に魔力を使ったはず。眷族がいれば魔力回復の足しになるのだが、奴はなぜか眷族を作りたがらないので眷族はゼロ。眠りながら無意識に血縁者から魔力を吸収しているのであろう」

「血縁者も僕しかいませんからね」


 最近とみに、僕とした事が、の台詞が多いのもそのせいでしょう。普段の僕ならそんな事はないんです。


 ――本当ですよ?


「そんな事で大丈夫なんすか! 俺を守れるのはヴァンさんしかいないんすよ!」

『プックルモ、イルゾ』

「プックルにも期待してるっす! よろしくお願っす!」


 実は僕も少し不安でした。マトン程度ならどうという事もないですが、マロウの群れや、それ以上の魔獣も多くいますから。

 時間無制限ならば、魔獣の巣を迂回するなどいくらでも考えられますが、時間的に厳しい場合が出て来そうです。


「その為にロップスを呼んだ。ロップス!」

「は!」


「貴様、ヴァン達と共に行け」

「な!? 私がこのバカタロウとともに? 私には主をお守りする使命が」


「貴様に守られる私ではないわ」

「……そ、それはそうですが」


 確かにロップス殿に来ていただければ心強いです。あの食べっぷりですので食費的には不安ですが。


「別にタロウらと馴れ合えとは言わん。これは竜族の長としての命令だ。共に行って世界を守れ」

「世界を……。かしこまりました。このロップス、主のめい、間違いなく果たして参ります!」


 ロップス殿が膝を折りアンセム様に誓います。


「さらにもうひとつ頼まれてくれロップス」

「は!」


「出逢ったらで構わん。我が弟アンテオにもファネルのもとを目指す様に伝えてくれ」

「それは、どういう意図にございますか?」


「万が一の保険だ。アレならばとりあえずの礎にはなれるだろう」

「畏まりました!」


 アンセム様の弟さん。お会いした事はありませんが、僕より魔力が少ないという事はないでしょうね。



「ロップスさん、よろしくっす!」


 タロウが右手を差し出して握手を求めました。タロウはそういう所、割りとキチンとしていますね。

 が、ロップス殿はバチンとその手を払います。


「勘違いするな。私は貴様を守るのではない。この世界の為に生け贄を守るのだ」


 そしてこちらに右手を差し出し、よろしく、と言うロップス殿。

 タロウがオロオロしています。

 うーん、気まずいですね。でもきっと道々仲良くなるでしょう。


「よろしくお願いします、ロップス殿」


 ロップス殿の右手を固く握り返しました。


「では行け! 世界を守るの――」

「ちょーっと待ったっす!」


 このタイミングで話の腰を折るとは、やりますねタロウ。


「なんだタロウ」

「なんだじゃないっすよ。俺が結界仲間に認められる話、済んでないっしょ!?」


「あ」

「あ」

「あ」

『ア』


 すっかり忘れていました。ここに伺ったメインの用事でしたのに。


「忘れておったのお。最近歳をとったせいか物忘れが……」

「父に魔力を吸収されるので最近うっかりが多くて……」

「私は貴様らを守る事が仕事だからな……」

『メェェェ』


 プックルまでヤギの真似で誤魔化しています。


「そんな言い訳は良いんすよ! 何したら認めて貰えるんすか?」

「勘違いするでない。私が忘れていたのは、既に認めた、と伝えるのを忘れていたのだ」


 アンセム様、それ今考えたんじゃないんですか?


「それ今考えたんじゃないんすか?」

「バッ、バカを言うでない。タロウの中の竜の因子を見つけた際にな、既に認めておったのだ」


 疑いの目を向けるタロウ。僕は自重しました。


「その証拠にほれ。胸をはだけてみよ」


 言われてタロウが胸をはだけて覗き込みます。


「なんすかこれ? 変な病気とかじゃないっすよね?」


 タロウの胸の中心に、小指の先程の緑色の円が見えます。少し怯えているようです。


「私が認めた証よ。タロウに潜った際に、魂に刻みつけた。五英雄と呼ばれる他の連中にもつけてもらうが良い」


 ホッと胸を撫で下ろすタロウ。本当に病気かと疑ってたんでしょうか。


「疑ってすんませんした!」

「さぁ、これでここに用はあるまい。次はガゼルの所か? それともタイタニアか?」


 悩みどころです。ファネル様の所へさえ行けば良いと思ってましたからね。どちらから参りましょう。




◇◆◇◆◇

21.5「タロウ:結界の端っこ」



 そっすかー。

 結界を維持できる範囲から出るとそんな事になるんすか。

 思ってたより責任重大やんね、それ。自分が死ぬだけの方がまだマシやなー。


 俺ってほら、ちゃらんぽらんに見えるやん。自分でもそう思ってるしそれは良いんやけど、自分のせいで誰かが困るの嫌いやねんなー。


 こっちの世界の人たちがどれくらいいるんかもまだ良く分からんし、知り合った人って数人だけよ。それでも自分が結界を維持できる範囲から出たせいで魔力枯渇、そんで結界崩壊でみんな死ぬ。


 それはアカンすよ。


 でも、まぁ俺、結界を維持できる範囲出ないけど。という事は問題なし! セーフ!


 ちゃんと魔力溜めてからファネルさんとこ行けばオールオッケー! この問題は解決! もう考えない! どうせ家から出ないから!




 ところで、ここってこの世界の最南端やんな。

 結界の端っこがどうなってるか興味ない?

 俺はある!


 ヴァンさんとアンセムさんが喋ってる間にちょっと見て来よう思うんす。



 えー。見に行ったらあかんねんて。

 なんでっすか!? って聞いたら怖い事言うねん。


「結界は破れませんけど、強く押したら体ごと向こうに抜けてしまいます。抜けたらもう戻れませんよ」


「怖すぎー!」

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