19「青白い魔力」

 ちょっと思っていたのと違いました。竜人族の若者、ロップス殿の食欲がこれほどとは。


 タロウと二人で黙々とモグモグと食べ続けています。


 あ、いや、タロウの方は黙々とではありません。ウメーとかウマーとかいちいち叫びながら食べています。


「ヴァン殿は食べないのか?」


 食べるつもりだったんですけどね、その勢いだと僕は遠慮しましょうか。


「えぇ、僕の事はお気になさらず」

「そうか。では遠慮なく」


 あぁ、僕用に焼いたベリーレアのマトンが。


「美味い。この焼き具合、最高に美味い」


 お気に召された様でなによりです。焼いた分のマトンでは足りそうもありません。

 カバンから凍らせたマトン肉を取り出し、氷の魔法を解除、風の刃を手に纏わせ切り分けます。そしてせっせせっせと焼き続け、結局全て焼きました。


「おい、タロウとやら」

「なんふかろっふすさん」

「貴様、右手にも肉を持っているだろう。左手で取った最後の肉は私によこせ」


 いきなりガツガツと右手に持ったマトンを食べるタロウ。


「みひてのにふ? なんのほとっふか?」

「貴様、ケンカを売っているのか?」


「俺はいっぱい食べて魔力を回復させるんす!」

「良いから黙ってよこせ!」

「い、や、っす!」


 喧嘩ですか。ヴァン先生は喧嘩両成敗派です。


「「ぐはぁ」」


 何が、ぐはぁですか。ヴァン先生は両手での同時手刀も得意です。


「これは失礼した。誇り高き竜人族の私とした事が、見苦しい所を」


『コレ、美味イ』


 あ、タロウが落とした最後の肉をプックルが。

 殴られ損ですね、二人とも。



「すまぬ、あまりに美味かったので食べ過ぎてしまった」

「構いませんよ。しかしお好きなんですねマトン」


「好きだ。しかも久しぶりだったのだ」

「この森にもマトンはいるでしょう?」

「いや、それがな……」



 あの結界の内側には魔獣はいないそうです。

 というより、魔獣が入らない様にする為の結界だそうです。

 十年ほど前から突如として魔獣達が竜族を襲うようになり、もちろん竜族や竜人族の方が魔獣より強いので、肉が向こうからやって来たと最初は喜んだらしいです。

 けれど余りにも多過ぎたらしくアンセム様が面倒になってしまい、結界を張って侵入を抑えているとの事。


「そのせいで我々は久しくマトンは食べておらんのだ」

「なぜ魔獣が竜族を襲うように?」

「我らの魔力目当てであろう」


 なるほど。我々が魔獣の肉を摂取すれば魔力が回復するのとは少し異なり、魔獣が魔力量的に高位の存在の肉を食べると進化する事があるそうですからね。


「魔獣如きに遅れを取るアンセム様や我らではないのだがな。なにせアンセム様の居を移す事はできんからな」


 確かにそうでしょうね。五大礎結界の礎としてあの庵にお住まいになられているのですから。


 タロウもようやく起き上がりました。やはり防御力がロップス殿の方が断然高いですね。


「痛えっすよヴァンさん。また魔力が溜まるのに時間が掛かるじゃないっすか」


 あ、そうでした。僕とした事が迂闊でした。


「そうは言いますがタロウ。躾は躾ですからね」

 ぷー、と口を尖らせるタロウ。可愛くありませんよ。


「馳走になった。明日は私もアンセム様に呼ばれている。では」


 森へ入って行くロップス殿を見送ります。竜族の皆さんはどこでお休みなのでしょうね。


「ではタロウ、僕らも休みましょう」

「寝る前にちょっとだけ魔力入れてみて欲しいんすけど、良いっすか?」

「良いですよ」


 やる気があるのは良いことです。眠そうなプックルのすぐ近くでタロウに魔力を入れます。


 タロウの右手の白い光が全身へ行き渡りました。相変わらず魔力の循環には滞りがありません。

 アンセム様より教えて頂いた核をイメージする事を、魔力を循環させながらやっている様ですね。


 ……長いですね。今までならとっくに霧散させていましたが。


 ――あ。


 タロウの纏う白い魔力が、薄くですが青白く、若干青み掛かっていきます。


 そこで限界のようです。魔力が霧散しました。


「ぷはっ! やっぱダメっす!」

「いえ、恐らくですが、僕の魔力にタロウの魔力が少し混ざっていました」

「え? マジすか? 分かんなかったすけど」


 そうですか、意識してできた訳ではないんですね。


「魔力には個人差が少なからずあります。僕の魔力は基本的に白が強く出るんですが、今のタロウは青白く輝いていました」

「おぉ! ということは!」


「ええ。恐らくですが、青み掛かったのはタロウの魔力のせいでしょう」

「よっっっしゃ! 俺の時代が来るっす!」


 タロウの時代が来るかどうかは知りませんが、間違いなく一歩前進でしょう。


「どんな感覚でしたか?」

「いやー、よく分かんないっすけどね。俺の核? にヴァンさんの魔力がクルクル回ってるのをイメージして、それを両手で包んですくう感じ? そしたら指の間からヴァンさんの魔力が抜け落ちてって、でも手の中にはなんか温かみがちょっと残ってた? なんかそんな感じっす」


 アンセム様の助言通りやれたという事でしょうかね。


「明日の朝、アンセム様にも報告しましょう。ではもう寝ますよ。プックルはもう寝てしまいました」


 簡易テントとプックルの間に並んで寝転がります。

 プックルが居ると風も当たらなくて良いですね。

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