18「竜族の末裔」

 アンセム様の説明はこうでした。


 タロウの世界では、かなり昔の人々は魔力を使って魔法のようなものを使っていたそうです。

 が、世界から魔力の源となるものがすでに枯渇。


 大きな魔力の器は常に空っぽ。

 そして何世代も重ねた結果、魔法の技術そのものが失われ、自らの魔力を感じる感覚も併せて衰退してしまったと。

 なので、タロウの魔力の器も現在のところ空っぽである、だそうです。


「それでいつ俺の魔力溜まるんすか?」

「それははっきりとは言えん。この世界の空気や水などには魔力の源となるものが豊富にあるのでな。いつかは溜まる。魔獣の肉を喰らえば尚早かろう」

「はぁ、そうすか」


 少しやる気が削がれた様ですね。気持ちは分からなくもないですが。

 けれどようやく少し分かりましたね。

 タロウは感じられませんが、魔力の操作については古代の感覚が残っていたという事なんでしょう。分りませんが、たぶん。


「まぁ聞け。タロウに深く潜って面白い事も見つけた」

「はぁ、面白いことっすか」


「タロウの住む島の形について、どう思う?」

「形すか? 特にどうとも思わないっすけど」


 少し沈黙。


「……そうか」


 アンセム様が残念そうです。求める答と違った様ですね。


。そしてタロウの肉体に深く潜った結果、『竜の因子』を見つけたのだ!」

「なんだってー!!」


 タロウ、貴方とりあえず大袈裟に驚いただけでしょう?

 しかしなんでしょう『竜の因子』とは。


「ふふふ、ヴァンよ。お主でも知らぬであろう」

「はい、存じ上げません」


「竜の因子とは、我ら竜族のみが持つ核なのだ。なぜタロウに竜の因子があるか、そんな事は分からんが、間違いなくタロウに竜の因子はある。

 すなわちタロウは――タロウの島に住む者どもは、タロウの世界における竜族の末裔という事だ」

「なんと! 俺が竜族の末裔! なんか分からんけどカッコいいっす!」


 なんという事でしょう。まさかタロウが竜族の末裔とは。父は気付いていたのでしょうか。


「竜族の末裔だとなんか違うんすか?」

「いや、特には変わらぬ」


「え?」

「え?」

『エ?』


 長めの沈黙。

 さすがにプックルも驚きましたか。


「いやいや待て待て。特には変わらぬが、竜の因子があるという事は、竜族の長たる私の身内も同然。タロウの魔力問題について、私が解消できるという事である」

「おぉ、なるほど!」


「というかもう解消してやった」

「おぉ、さすがアンセムさん!」

「そうであろうそうであろう!」


 アンセム様のキャラクターが以前より軽いです。

 昔はもっと重厚な雰囲気の方でしたが。タロウに感化されていませんでしょうか。


「竜の因子はすでに死んでいるのと同じだったのでな。私が因子に火を入れておいた」

「竜の因子に火が入るとどうなるんすか?」


「竜の因子が蘇るな」

「竜の因子が蘇るとどうなるんすか?」


「魔力の回復量が少なくとも倍、いや、数倍だ!」

「キタコレー!」

「きたこれ――? そうであろうそうであろう、きたこれきたこれ」


 アンセム様、それ若者言葉とかじゃありませんよ。アンセム様のキャラが崩壊の一途を……


「いままでのタロウの魔力回復量は微々たるものでな。しかも肉体の回復と強化に費やされておったようだ」

「肉体の回復ですか?」


「そうだヴァンよ。タロウと出会った時、瀕死の状態ではなかったか?」


 あ、あれですか。

 瀕死の状態だったのかも知れません。地面にめり込むほどの上空からの落下でしたから。

 まさか父のせいで魔力が空っぽだったとは……


「えー、あー、そうですね。割りと瀕死でした」

「そうであろうそうであろう。さらに頭のてっぺんへのダメージと、牛に轢かれたかの様な全身へのダメージがあったわ」


 度重なる僕の手刀と、プックルのモフモフ事故の件もですか。


「えー、あー……そうですか」

『エー、アー……ソウデスカ』


 プックルのはタロウが悪いんですよ。いや、僕の手刀もタロウが悪い時にしかしていませんか。


「しかし! 竜の因子が蘇ったお陰でタロウの魔力回復量は倍増! 肉体の回復も速まる! そのお陰でこの世界は救われる! これはもう、私がこの世界を救ったと言っても過言ではあるまい!」


「さすがはアンセムさん!」

『アンセム、サイコー!』

「アンセム様カッコいいです!」


 これはもう乗っかっておきましょう。僕のキャラはこういう感じじゃないんですが。



 すでにすっかり日が落ちました。辺りは真っ暗な時間ですが、竜人族の若者たちが篝火を焚いてくれたので僕らの周りは明るいです。


「今夜はもう遅い。後は明日にしよう。私はこのまま庵で眠るが、あいにく客用の宿などはここにはない。お主らはどうする?」


「先ほどの広場で野営する事にします」

「今宵は愉快なひと時を過ごした。また明日な」





「ヴァンさんヴァンさん」

「どうしました? 夕食ならもう少し待って頂ければ」


 プックルとじゃれあっていたタロウが寄ってきました。


「お腹も空いたっすけどそうじゃなくて。街長のとこにいた使者の人がこっち見てるんすよ」


 あ、本当ですね。結界内なので完全に油断していましたが、大した隠形です。全く気付きませんでした。


「使者どの! どうです、ご一緒しませんか?」


 特に返事はありませんでしたが、こちらへ歩み寄って来られました。


「夕食か」

「えぇ、大した物はできませんが、今朝仕留めたマトンの肉がもうすぐ焼き上がります。召し上がりますか?」

「……頂く」


 どうやらマトンがお好みの様ですね。多めに焼いていて良かったです。焚き火の近くに座られました。


「主アンセムはお主らの事を気に入ったようだな」

「使者どのは……」

「私の名は使者どのではない。ロップスと申す。主アンセムの最後の子だ」

「え、そうなんすか?」


 ダンゴ汁も煮えましたね。そういえばプックルの食事はどうしましょう。パンチョ兄ちゃんからは聞いていません。


「プックル、あなたの食事はどうすれば良いです?」

『プックル、マサンヨウ、ナンデモタベル、デモ、今日ハ草タベル』


 そうですか。そういえば山羊でしたね。


「今日中に来れるとは思っていなかった。早くて明日の昼くらいかと」

「プックルのお陰です」

『プックル、ハヤイ』


 マトンも焼き上がりましたね。


「さぁ、食べましょう」


 各々が串に刺したマトンを頬張ります。美味しいです。やはりマトンは塩だけで焼いたものが一番美味しいと僕は思います。

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