第4話

 次の日。水曜日の昼。やはり高橋は来なかった。だが。

 俺は一人の男を呼び出した後、吉村の元へ椅子を持って行った。最近はずっとこいつと昼飯を共にしているから、何も疑問は抱かれないと思ったが、俺の覚悟の表情を見て、彼は何か察したようだった。

「なんか、あるのか」

「ああ、だが待て。役者が揃うまで」

 だが、待てど暮らせどあいつはやって来なかった。かっこつけたはいいけど、このままじゃ昼休み終わるぞ。

 もうあいつなしで話を始めようと思ったその時、奴はやって来た。

「くっくっく。ふーっはっはっはっは! 待たせたな! 樹山!」

 謎のポーズと共に現れたこいつは武田。俗に言う、やばい奴だ。

 隣クラスなのだが、体育の時間、吉村がいない時、それでいて俺が一人では認められない本当にどうしようもない時だけペアを組む存在だ。できれば俺もあまり相手にはしたくない。それは皆同じ気持ちらしく、既に教室内では「誰だよ、あいつ呼んだの」みたいな空気ができあがっていた。

 が、そんなこと気にも留めない彼、武田は、近くの空いている席にどしんと腰かけた。俺が彼を召喚したとクラスに判明し、同時に俺の好感度も下がっている。ここは早めに話を終えたい。

「ほほう、三大将が集まるなんて、何か大事な話があると見た!」

「……その話し方辞めろよ。それと、その三大将、多分悪い意味で使われてるわ。俺も今知ったけど」

「むふん! その話し方を辞めろとはつまり、我に死ねと申すのか?」

 ちなみに武田の一人称は「我」だ。

「ああ、もう死ねよ。じゃ、話始めるぞ」

「この前の、いずれ話すって件か?」

 吉村は覚えていたらしく、俺に訊ねる。もうこいつだけでよかったかもしれない。

「ああ、その件だ」

「その件とは、一体、どの件だ?」

「声量考えろお前。ここはカラオケじゃねぇんだよ」

「とりあえず、話してみろよ」

 吉村は、武田のペースに飲まれることなく俺にそう言った。さりげなく声量を落としてくれてるのもありがたい。もうこいつだけで……以下略。

「高橋を救いたい」

 俺は正直に直球でそう告げた。二人は驚いた様子で目を見開いた。そしてにやりと笑みを見せた。

「いいよ。ぼっちの縁だ。乗った」

「我もだ。なるほど、我を呼んだ理由が分かったぞ。それは不可能を可能にする、まさに、そ――」

「ありがたい。で、だ。やってもらいたいのは簡単なことさ」

 三人は小声でこそこそ話している。だが、今更人目など気にしない。

「俺たちぼっちが得意としているのはなんだ?」

「それはすなわち! じ――」

「盗み聞き、とか?」

 俺は指をぱちん、と鳴らした。ビンゴだ。

「頼む、明日の昼休みまででいい。その能力を木戸に全集中させてくれないか?」

 二人はきょとんとした顔になった。

「木戸って、隣のクラスの?」

「ああ」

「なんで?」

「それは聞くな。盗み聞きする内容は二つ。彼女の好きな人と嫌いな人について、だ」

 武田は「なるほど、だから我を……」と呟いた。そして、

「報酬は?」

「来週どれか一日の昼飯奢ってやる。その代わり、期限は一日しかない」

「いいよ。やれるだけ、やってみる」

 吉村はそう言って、武田も了承を笑みで伝えた。

「おれもやるが、色々と同時並行だからな。お前らに期待してる」

 そして俺たちは肩を組んでかけ声する訳でもないのに一致団結して、そそくさと解散し作戦を決行する。

 どうだ、ぼっちはかっけぇだろ? これに習って皆ぼっちになればいいんだ。

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