第13話 さいごの乳

 マロイは新しい宇宙をこの世に送り出した。だが御七夜(おしちや)が過ぎると、オミは赤子を荒ぶる川へ捨てろと従僕に命じた。それがオミの「あとはそれからだ」ということだった。従僕は沈痛な面持ちで赤子を籠に入れて背負った。この男にできるのは籠にやわらかな藁を敷いてやることだけだった。赤子の泣き声が従僕の背中を打ち、マロイの涙が思われて胸が締めつけられた。

 ――捨てるにしても、もういちど乳を飲ませたい。

 男はそう思って乳の出る女はいないか、乳の出る女はいないかと半泣きで歩いた。その声に貧相な家の女が、

「わたしのでよかったら」

 と応じた。女は赤子を胸にあてながら、云った。

「この子は長寿の相を持っておりますなあ」

 ――もうすぐ死ぬというのに、この女は惨いことを云う。

 従僕は歯がみしてたずねた。

「何でそう思うのだ」

「相というのは見える者には見えるのでございます」

 そう答えて女は美しい笑みを浮かべた。男はまた赤子の入った籠を背負った。

―――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る