第11話 朝廷の命
「オミ殿、待たれい。私は戦いに来たのではない。オグマ殿が来られたのも、私が呼んだからではない」
オキのその言葉が、またオミの餌食になった。
「ほう、オグマ殿が勝手に来たと云うか。それではオグマ殿も好い面の皮。オキよ、この期に及んでおのれだけ好い児になるか。ハタツモリの若さまというのは、もう少し真面だと思ったが小狡いのう」
オミはそう云ってせせら嗤った。オグマが抗弁しようとしたが、オミはそれを無視して後ろへ言葉を投げた。すかさず後ろの部屋から絢爛な武具を身につけた朝廷の使者が兵士とともに現れ、聞き慣れぬ音調の言葉を発した。
「オミの申したこと真である。キブネが病いになった折、オミは大いなる力を尽くした。ゆえに朝廷はオミを武蔵のミヤツコとし笠原ノ直ノ使主と名乗ることを許した。オキと申す者、オミの大恩を忘れ、朝廷の命に楯つくは明々白々の反乱。よって大和朝廷はオキを誅せよと命ずる。次に上毛野の君に申す。君という高い姓をたまわっているにもかかわらず、罪びとに味方するとは不届き千万。即刻、引きさがらねば大和に残しているその方の兄弟・家来も成敗されるものと考えよ」
オミという男は人の好さそうな顔をしてあちこちに権謀術数を張りめぐらせ、朝廷をここまで使いこなすかとオキは唖然とした。
「謀略だ。私は兵士を用意したこともない。オグマ殿が今のいま来られたのに、大和の使者が来ているのは奇妙だ。そのうえに御辞まで用意しているとは更に奇っ怪」
オキは猛り狂った。だがオミも朝廷の使者も顔色一つ変えず、居並ぶ兵士に弓矢をかまえさせた。
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