第9話 オキナオウナ

 オミは、オキが反抗しなければならないように巧みに仕組んでいた。屯倉に予定された土地の者らがハタツモリの屋敷を訪ねて行ったのも、人を使ってそうなるよう煽った結果だった。

「たとい、殺されようとも行かねばならぬ。反乱でないのは、ここに屯倉に予定された土地の者らがいないことで分かるであろう。いまのままでは村は割れ、国は乱れ、隣国に狙われて大和王の食い物にされる」

 オキの堅い意思にマロイは消え入りそうな声で云った。

「もう会えなくなります」

 父オミはマロイとオキの仲に気づいている。今日は、何とか脱けだしてきたが監視は一層厳しくなること必定だ。そう思うとマロイは感情を押さえきれなくなりオキの胸に崩れた。草の葉がゆれた。白い雲が2人を覆い、雲間に日輪が一条きらめいた。大鳥のキコニアが大空をゆるるかに飛翔した。そのキコニアの舞い姿を野良の老夫婦が見ていた。

「見よ、キコニアだ。こんな世にも良いことがあるんじゃろうか」

 翁(おきな)が云うと媼(おうな)が応じた。

「あのあたりで赤子が生まれるのかも知れません」

「あのあたりに家は一軒もない。子どもが生まれるものか」

「あちらには神さまの御社(おやしろ)がございます。キコニアは神さまの社へ赤子を連れてくると申しましょう」

 媼翁の2人はそんな会話をしながら大空の主(ぬし)キコニアを眺めた。

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