第7話 屯倉(みやけ)の人々
そんな激烈な出来事があって一ト月がすぎた頃、ハタツモリに客人(まろうど)があった。大和の都から上毛野(かみつけの)の国、いまの群馬へ帰る途中の上毛野の君(きみ)のオグマ(小熊)が 立ち寄ったのである。熊のような面構えをしているが、朝廷から君の姓(かばね)をたまわっている有力者だった。一夜の宿を請いたいと云う。オグマはキブネと懇意にしていたのでオキは快く持て成した。
大和王の近くで仕えていたオグマは、オミがミヤツコの地位を手にしたことを知っていた。それに関連してオミが武蔵の国の4ヶ所を屯倉(みやけ)として朝廷にささげるという話までつかんでいた。屯倉とは大和朝廷に献上するための収穫物を収めておく倉庫のことである。屯倉の地域の民はきつく管理されて生活にも規制が入った。
「キブネ殿は大和の王に協力はしたが、へつらいはしなかった。儀礼以上の貢ぎ物を求められるなら直の肩書きも要らないと云い、物欲しそうな視線も送らなかった。増して一挙に4ヶ所の屯倉を献上するなど狂気の沙汰だ」
オグマはそう憤慨した。
屯倉としてささげられるのは横渟(よこぬ)・橘花(たちばな)・多氷(おおひ)・倉樔(くらす)の4ヶ所だった。いまの場所で何処とは断定できないとされているので大まかに云うと、埼玉県吉見町あたり、川崎市あたり、あきる野市あたり、横浜市あたり、という説がある。
――ミヤツコが見栄を張りすぎると民が土地から逃げだす。
オキは溜息をついた。
翌日、オグマ一行はハタツモリを立った。入れ替わるようにして数人の男らがオキ屋敷の門をくぐった。屯倉に予定された土地の者たちだった。
「屯倉になれば無理を強いられます。村を捨てる者も出ましょう。ハタツモリの旦那がミヤツコならこんな騒動にはならなりませんでした」
男らは口々に憂慮を訴えた。オキはそれから何日も考えたが、できる事と云えば屯倉の人たちに無理な要求をしないようオミに願い出ることくらいだった。いまとなってはそれも撥ねつけられるだろうと思ったし、それどころか弓矢で射ぬかれるかも知れないという危惧もわいた。
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