第4話 水争い
オキは懐かしいわが家の前で天をあおいだ。門をくぐると中から大音声(だいおんじょう)が巻きおこった。
「オキさまが帰ってきた!」
「無事だ。無事に戻ったぞオ!」
あるじキブネが死に、息子のオキもいないという状況に暗く沈んでいたハタツモリの屋敷が欣喜雀躍に満ちた。だが、オキは重い話も聞かなければならなかった。父親が死んだこと、ミヤツコの地位をいっときオミに預けただけなのに、オミはおれは真のミヤツコになったと吹聴していることなどを、母と作頭(さくがしら)のカワビが交互に語った。母は父を失ったことで気力がなえミヤツコなど呉れてやるがいいと素っ気なかった。いっぽうカワビは、いまこそミヤツコはハタツモリの屋敷になければなりません、オミが力を持てば好き嫌いで雇い人が選ばれ世の中が荒れます、と熱く説いた。
カワビの不安はすぐに現実となった。日照りでもないのに田畑へくる水が少なくなった。不審に思ったカワビは水元へ急いだ。水口がいじられハタツモリへ流れる口が小さくなっていた。水の分配権はミヤツコにある。亡くなったキブネは、その分配権を我田引水せず、誰の田畑にも相応に行きわたるように配慮した。
――なのに、これは一体。
カワビが考えているそこへ、オミ屋敷の若い衆が躍り出てきて、
「水口をいじりに来た悪党め」
と罵声をあびせ、殴る蹴るの狼藉におよんだ。
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