第3話 オキの帰郷
オミは大和から武蔵の国に帰った。キブネの息子オキが長旅から帰国したのは、それからまもなくのことだった。オキは村に入る前に水場で一休みし、無事に帰ってこられたことの感慨にふけった。
そのとき近くで悲鳴が挙がった。枝葉のあいだから見ると娘が走ってくる。あとから男どもがあざわらいながら追いかけている。男どもは娘に追いつくと肩に手をかけた。オキはそばにあった枯れ枝を咄嗟に放りなげた。
「どうか、したか」
とぼけた口調でオキが木陰から出ていくと、やさおとこが鋭い目ですごんだ。
「棒切れを投げたのはおまえか」
「キコニアが落としたのではないか」
「ちゃらっぽこを云うな」
「ちゃらぽこなものか。キコニアは巣作りのために相当な物も運ぶぞ。何しろ捨て子を助けて背中に乗せると云うのだからな」
「しゃらくせえ奴だ」
男は苛立って飛びかかった。オキは鋭く反応して男を草藪に投げた。その素速さに怖れをなして男どもは退散した。娘は青ざめた顔で、荒くれ者にいきなり襲われてと何度も礼を述べ、オミ屋敷のマロイ(円衣)だと名乗った。オキはハタツモリ(畑ツ守)の者だと答えた。オキの家はそばに小高木のハタツモリが林を成していたので、村の人たちはオキの屋敷のことをハタツモリと呼んでいた。ハタツモリの若葉は食用になり幹は優良な材になった。オキがそのハタツモリの者だと云うのを聞くと、マロイは驚いて口に手をあてた。
「どうしてそんなに驚く」
「旅に出ていると聞いていたものですから」
マロイはそうつくろい、オキの父キブネが死んだことも、ミヤツコの地位が自分の父親オミに移ったことも口にしなかった。
しかし2人は急速に親しくなった。オキは木陰においた荷物を背負って村なかへ向かった。マロイも途中まで一緒に歩いた。分かれ道で2人は別々の道を取ったが、少し行って振りかえり、また近寄った。意を決して、また別れて歩きはじめるものの、また近寄るということを何度か繰り返した。微風が笑い、小鳥たちが冷やかして歌った。
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