第15話 磯のアワビの片思い ②

ひかりは体力的にきつくなったので、バディのあやと別れ、

浅瀬でワカメやカジメ、それらについている尻高を少し採取して、

今日の漁を終わろうとしていたら、背後から声が掛けられる。


「おはようございます!何が獲れるんですか?」

砂浜を散歩中なのか、磯にいるひかりに対し女性が大声で挨拶と質問を投げかけてきた。


ひかりは漁協でもらったマニュアルに従って、笑顔で振り返り、

「おはようございます!今は主にウニを・・・・」

ひかりはそこまで言いかけて、声を掛けてきた女性が目に入る。

「カミーネ・・・姫さま・・?」

「ええ~ウニ!見せてもらってもいいですか?」

カミーネが食い気味に砂浜を早足で近づいてくる。

ひかりも慌てて磯から上がり、桶を持ってカミーネの方に向かう。


「お仕事中でした?」

「いえ、今日はだいたい終わりです」

そう言って、ひかりは桶を砂浜に置く。

「うわー沢山!ウニが元気に動いてる・・・ってアワビもいる!」

「はい、今日、初めてアワビを獲ることができたんです!」

「ええー、おめでとう!」

カミーネが自分のことのように喜んでくれる。

そして・・・

「これってわたしが買うことってできるんですか?」

カミーネがひかりにとって急所の一撃を繰り出してきた。

「え、ダメです!これはわたしが食べるんです!」

ひかりは素の反応をしてしまう、ギリギリ敬語だけは使うことができた。

「そう、そうよね・・・自分で獲って自分で食べるってなんか大切なことな気がする」

カミーネが納得しながらも、肩を落としている。

「・・・姫様、わたしと一緒にたべますか?」

「いいの!」

「じゃあ、わたしと半分こしましょう」

「ありがとう!とっても嬉しいわ・・・ウニも食べられるの?」

「もちろんです!」

「やった~!」

カミーネが砂浜を駆け回っている。

その姿をみてひかりも嬉しくなってきた。


ひかりとカミーネはすぐに漁協に寄り、ひかりはウニとアワビ以外のモノを水揚げし、ウニとアワビはそのまま自分で買い取った。


「そっか漁協を通さないと密漁扱いになっちゃうもんね」

「そうなんですよ、あ、ここです」

ひかりとカミーネは海女の仕事の話をしながら、ひかりのお婆ちゃんちへと向かい、

到着する。


ひかりはお婆ちゃんに事情を説明し、自身はシャワーを浴びに行った。

お婆ちゃんはカミーネの相手をしながら、庭先で手際よくウニを割り、アワビを捌いていく。

「お婆ちゃん、はっやーい!」

「数え切れないほどやったっけね」


最初はカミーネが姫様だと知ると、目を丸くしていたが、

孫のことや他愛のない会話をしていたら、自然と慣れていき、

作業をしながら、お婆ちゃんは色々なことを話してくれた。


庭には、所狭しと色々なものが干してある。

イワシ、しらす、スルメイカ、ワカメ・・・梅干しもたくさん。


「こんなに干して、売るんですか?」

「いんや」

お婆ちゃんは笑い、

「あれが食うんじゃ」

と言って戻ってきたひかりを顎で示す。

それを聞いてカミーネも笑う。



料理を待ってる間にひかりも聖基督学園の生徒で同級生だと告げる。

「海女さんしてるから大学生かと思った」

「わたし、学園では大人しくしてるから・・・」

そんな会話をしていると、料理が到着する。


「お待たせお待たせ、どうぞ召し上がれ」

お婆ちゃんがお盆に乗せていた料理をテーブルに置いていく。


出されたメニューはアワビのお造り半身と朝取りのイカ刺し、

アワビの肝バター醤油炒め半身、

割っただけのウニ、わさび醤油&ごはん、

大根おろししらすのせ、

きゅうりのつけものと豆腐とワカメの味噌汁。


「ここんちの子になりたい・・・」

カミーネはつい言葉が出た。

「それじゃ~ひかりと同じだっぺ」

お婆ちゃんが笑い、ひかりは赤い顔をする。


「食べましょ~!」

誤魔化すように少し大声でひかりが言い、

みんなで揃って、

「頂きます!」


カミーネは手を合わせ目を閉じ、大き目に息を吐く。

感覚を内向きにするサインだ。

そして、目を開き、真っ直ぐにアワビの切り身に向かう。


最初の一切れは醤油を着けずにそのまま口に運ぶ。

「カタっ」

「まだ生きてっかんな」

無口なお爺ちゃんが応えてくれる。


(生きてる・・・そっか命を頂いてるんだわ)

カミーネはゆっくりとアワビを噛みしめる。

嚙めば嚙むほど磯の香が口内に広がってくる。

ホタテやサザエ、ハマグリとは違った純粋な磯の香が鼻を抜け、

目を閉じていると、舌の上に海が広がって行くような感覚になる。


次に醬油に付けてもう一切れ口に運ぶ。

醬油の味に磯の香が加わり、料理になる。

料【食材】を理【ことわり】を持って食べるという意味が腑に落ちる。

アワビをそのまま食べるより、食べやすく、そして、深く味わえる。

「はぁ~美味しい・・・」

カミーネの心からの言葉にひかりも打ち震える。

(そうだよね、姫様、美味しいよね)

そう思うが邪魔しないように声にはださない。

自分の世界に行ってる時に邪魔されたくないのはひかりもそうだからだ。


次に、アワビの肝醬油バター炒めを一切れ口に運ぶ。

刺身とは全然違う柔らかさで噛むたびにドンドンとアワビの旨味が溢れてくる。

肝バターの芳醇は香りとより深い磯の香が醤油で纏められて喉の奥に落ちていく。

飲み込んだ瞬間に後悔をする。

もっと味わえば良かった・・・

次の一切れは十分に咀嚼しいつの間にか口の中からなくなるほど、味わって食べた。

それを見ていたお爺ちゃんが、

「次来たときは酒焼きだな」

そう言ってくれた。

酒焼きとはアワビを殻ごと焼いて酒と醤油だけ垂らして食べる料理方でお爺ちゃんはこれが一番上手いといっていた。

「必ずそれを食べにまた来ます!」

そう言って、カミーネはウニご飯へと舞台を移していった。

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