第16話 磯のアワビの片思い ③

「はぁ~」

「はい、どうしたの?とっとと言いなさい」

カミーネのため息にりっちゃんがぞんざいな扱いを返す。


「優しくないなぁ~」

「どうせ話すことになるんだからりつの方が合理的よ」

カミーネの非難を今度は向かいの席に座っているななみが、りっちゃんの肩を持つ。


「で、どうしたの?」

「すんごく・・・・・・おいしかっっったの!」

カミーネの思いっ切り溜めて言うと、

無言で手が4本伸びてきて、カミーネの首や肩に取り付いてくる。


「kwsk!・・KWSK!」 【詳しくの意】

「貴方、私たちが居るのに一人だけ良い思いして許されると思ってるの・・・?」

りつは肩をガクガクと揺すり、ななみは首や頬を冷たい手で優しく撫でてくる。


熱(りつ)と闇(なな)の圧が凄い。


「分かった!言う、言うから~」

そう言ってカミーネは2人に今朝のひかりとの出会いと朝食の話をした。


「・・・・被告は私たちを差し置いて一人で美味しいもので至福の想いに至っています、此れは断じて許せる行為ではありません、極刑を求刑します」

「意義あり!お待ちください裁判長、一連の流れは不可抗力であり、わたしの意思ではありません!」

「意義を却下します。判決!!ギルティ」


3人は冗談を笑い合い、真剣な顔に戻る。

ここは学園内に新設された領内来活(こいかつ)委員会の部室である。


「あんなに美味しいものがあるのに来活にほとんど寄与してないのよ」

「地産地消が全く行われていないわね」

「地産地消?茨の城の漁獲量ってどれくらいなの」

「北海道の次よ」

「え!?それって全領2位ってこと」

ななみが腕を組み無言で頷く。


「2人はウニやアワビをどれくらい食べる?」

「回転寿司でたまに」

「そうね、踊り食いや刺身、割りたてなんてそうはないわ」

「だよね~わたしも同じだよ」

「ちなみに、鮮魚消費のランキングは海のない信州(旧長野)や埼玉よりも低いわ」

ななみが携帯を見ながらデータを教えてくれる。


「ってことは獲れた魚は?」

「大江戸、※築地に直行ね、売値が倍くらい違うんじゃないかしら」

「え、待って!別に海女さんたちの売上は変わらないわよね?」

「当然ね」

「じゃあ、大江戸で食べるより、地元の民宿で食べる方が断然安いはずよね」

「海女漁協、輸送、卸売、仲買、販売店が海女漁協、販売店だものコストを考えたら比べるべくもないわ」

「今朝の食事が三ツ星レストランに負けているとは思えないのよ・・・多分、わたし、一生忘れないもの。

それに、家族やりっちゃん、ななみにも絶対一緒に食べたいって思ったもん」

「カミーネ~」

りっちゃんがカミーネに抱き着き、

「カミーネの朝食への想いは磯のアワビの片思いみたいね」

ななみが眼鏡を直しながら言う。


「片思いなら両想いにしたいじゃない!」


3人が顔を見合わせて、そこはかとなく湧いてくる笑顔になる。


「わたしは海女さんへの聞き込みからかな」

「わたしは宿泊施設の経営状況をチェックするわ」

りっちゃんとななみが動き出す。


「じゃあ、わたしは!アワビの酒焼き食べてくる!」

「「ギルティ!!」」



※築地市場は一時移転されたが、跡地に再移転され活況を取り戻した。

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