第10話 笠門の栗 E

けいらが悔しがっている。

「ちっくしょー!」

そこに、優勝した田辺が近づき、

「ほらよ」

そう言って自分の名刺をけいらに渡し去って行った。


けいらはもらった名刺をマジマジと見ると、裏に

『リキュールとシロップの作り方が知りたかったらいつでも来い』

と書かれていた。

田辺はワインからシロップを作ったといっていたから、未成年のけいらには難しい部分だ。それでもけいらの興味を持ったのは恐らく・・・・



「審査基準に感動って項目があったら、わたし、けいらに入れていたかも・・・」

カミーネは自分で出した審査基準に順じて投票した結果だった。


しかし、それは、事前に田辺の作品を食べることで、カミーネの心が柔軟フレキシブルになっていたことは本人も気づいていない。




「いかがでしたかお父様!」

イベントが終わり、共に審査委員をしていた父親に総評を問う。

「カミーネ・・・」

カミーネの父、水戸光山はカミーネの瞳をジッと見ている。


「今回は良くやったの」

「いえ、お父様。私は自分がいかに無知蒙昧かを恥じる毎日でした。

親友や学生の皆さん、けいご、周辺住民の皆さんの協力があって初めてできたことです」

そう言ってイベント会場を2人で眺める。


そこには学生が声を張り上げ売り子をし、お年寄りの手を引いたり、荷物を持ったり、交通整理、ごみの収集。

そして、出店、イベントに人々がごった返している。

焼き栗、甘栗、栗きんとん、栗ご飯・・・・

出店数は学生のボランティアという強力な人海戦術で倍の店舗数になり、一店舗あたりの売上も例年よりも高い。

アンケートによれば県外からの来場者は前年比の300%を超える勢いらしい。

学生たちはSNSを使ってイベントを大々的に告知し、また、県外の知人に直接誘引もした。

例年のデータを笠門市の担当と洗い直し、地域の栗農園や甘味処に聞き込み調査をした。

それらのデータをもとに運営のななみやけいごが綿密な計画を練りに練った。

まさに、参加者全員で造り上げたイベントであった。


学生ではない店舗運営側から任意で利益の数パーセントを感謝料として市に寄付する動きが起き、中には利益全て寄付して人もいた。

市はこの資金をカミーネに託しカミーネはそれを領内のすべての学園の生徒会に自由資金として等分配した。




そして・・・


学生たちの打ち上げの時。


マイクを渡されたカミーネは既に涙をながしていた。

『みんな・・・・・』

皆が静まり次の言葉を待つが・・・声が出てこない。

「頑張れ~」「姫様!」

カミーネを応援する声やもらい泣きしている女子も多々いる。


ファーっと大きく息を吐き、大きく吸い込んで

『みんな!ありがとう!』

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『私、1人じゃ何もできなかった、みんなの協力があってこの笠門のイベントは大成功に終わることができました!

りっちゃん、ななみ、学生の皆さん、本当にありがとう!

私の夢が一歩、現実に近づいたのは皆さんのお陰です』

カミーネが深々と頭を下げる。りっちゃんがななみに抱き着いて泣いている。

『今日は私達の勝利ですか?』

『勝利だ!』

『みんな、勝ちましたか?』

『勝ったぞ~!』

『そうです、これはみんなの大勝利です!本当にありがとう!』

『わー!』『姫様!』『カミーネ!』

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そして、もう一人。

「俺、人生でこんなに頑張ったの初めてだ」

「うん」

「たった1か月だったけど、全力を尽くした」

「うん」

「俺、田辺さんのところに行く」

「うん」

「学校辞めていくつもりだったけど、ななみに休学にしとけって言われた」

「うん」

「俺、茨の城で一番のケーキ作り職人になる!」

「うん、けいらならなれる!」


そう言って魂を燃やす若者が旅立っていった。


(お前に最初に食べさせるとは言えなかったけいらであった)



笠門の栗編 END




************

ここまでお読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願い致します。


感想、レビュー、☆、♡が頂けると幸いです。


次回より『梨バカのリカ』が始まります。

お楽しみに~。

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