第9話 笠門の栗 ③
りっちゃんのマイクパフォーマンスが響く。
『それではモンブラン日本一決定戦、ファイナリストを紹介します!
銀座富士屋本店のメインパティシエ、藤堂響さん
地元笠門からの挑戦、洋菓子喜栗のご店主、郡司悟さん
全日本パティシエコンクール優勝経験がある、迂都宮ボレロ、オーナー田辺憲治さん
地元、学生の星!久慈浜五来パンからのチャレンジ、五来けいら~
総応募数157件の中から厳選な審査による選ばれし4名です。』
パチパチパチパチ・・・
『それでは藤堂さんからモンブランのコンセプトを聞いていきたいと思います』
『コンセプトはお年寄りからお子さんまで安心感のあるモンブランです』
『確かに、見た目、普通のモンブランですね、安心感というのは?』
『笠門の栗は大きくて甘いのでその味を生かしつつ最もシンプルに作り上げました』
『たしかに、これは毎日でも食べたくなるモンブランですね!』
りっちゃんもノリノリで喋っている。
『続きまして郡司さん、お願いします』
『栗の糸がコンセプトです』
『糸ですか?』
『はい、マロンペーストに栗の美味しさを全振りして圧縮機で絞り出しました』
『これは凄い!マロンの雨?滝のように降り注いでいます!』
『はい、なるべく細長く絞り出すことにより、口溶けと柔らかい触感をだしていますが、糸の重なりを人の重なりのように協力して出来上がったと思っています』
『素晴らしいコンセプトですね人との協力が伝わってきます』
『続きまして大本命!田辺さんです!』
『笠門の栗に合うリキュール、ワインシロップから造り上げました。食べてみてください』
『え、終わり?凄い自信です、これは食べてみるしかありません!』
『最後はけいら、お前、良く残ったな!』
『世界中のモンブランの映像見て見た目の研究したからな!』
『はい!皆さん!けいらのモンブランは見た目だけです』
『ちょ、おま!コンセプトをちゃんと聞け!』
2人の夫婦漫才でギャラリーは大うけだ。
『わかったわよ、はいコンセプトどーぞ』
『投げやりだな、コンセプトは地元の食材だ!栗だけじゃなく、卵は奥久慈産、牛乳は太田の酪農家・・・・・・そして決めては久慈浜の塩だ』
『ケーキに塩?』
『まあ食ってみろや』
『わかったわよ、はい!ありがとうございました。
それでは審査委員の方!実食お願いします』
カミーネがモンブランと向き合う。
(老舗、富士屋の看板が出てきたみたいに整った見た目をしているわ。
確かに安心感がある。
栗の香りがちゃんとする。これが笠門の香りなのね)
カミーネは目を閉じて舌に神経を集中しながら食べている。
(次はマロンの糸、見た目から凄いわ、独創性とアイデアは断トツね
これは【映える】わ、でもは味は・・・・・・
フワットロ・・・何これ、濃厚な栗が口の中で溶けてなくなっていく
美味しい~幸せ~・・・あれ、もうない・・・これは凄いわ)
カミーネは目を見開いて空になった皿を見ていた。
(次はパティシエコンクール優勝した人のね
見た目に威圧感・・・これが自信。
マロンクリーム一本まで隙のない芸術作品のような完成度だわ、見ているだけで美味しさに満足してしまいそう。
フォークを入れるのが怖いわ・・・・でも)
カミーネは気合を入れてケーキにフォークを入れる。
(なんでドキドキするんだろう・・・ええい・・・何これ
・・・・調和・・・何層なんだろう・・・いろんな楽器が音楽を奏でているみたい
味のシンフォニー、カルテッド・・・いやクインテットよ、そうこれは)
「五重奏!」
つい、声に出してしまった。
それを聞いていたのか田辺さんがフッと口元を緩める。
(最後はけいらのモンブランね、
確かに見た目は先鋭的ね、けいらの性格が出ているわ
塩が添えてあるのはどういうこと?・・まあ、食べてみよう。
味はどうかしらね・・・・え、これは・・・
懐かしい味・・・子供の頃に飲んでいた・・・これを飲んで育ったんだ私
栗も卵も・・・これを食べて育ったんだってわかる気がする。
塩・・・・子供の頃、毎年の夏に行った久慈浜の匂いがする。
塩でリセットされて、もっと古い記憶に繋がる・・
小学校の記憶・・・野山を駆け回って栗拾いをした・・・)
「私のノスタルジー」
カミーネの頬に涙が一滴伝った。
『さあ!投票結果がでました!
優勝は・・・・・・31標を獲得した・・・・迂都宮ボレロ!田辺さんです!
おめでとうございます!
準優勝は洋菓子喜栗!16標を獲得した、郡司さんです!おめでとうございます!』
『それでは優勝インタビューをさせていただきます!
おめでとうございます田辺さん、今のお気持ちをおねがいします!』
『まぁ25年やってますからね、でも、勉強させられたよ』
『そうなんですか!』
『ああ、できれば来年からは審査員側に座らしてもらいたいね』
それだけ言って田辺は壇上を降りていく。
『それでは優勝した田辺さんにもう一度大きな拍手をお願いします!』
こうして、モンブラン日本一のイベントは終わった。
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