第5話 現状
カミーネは学校から帰ると早速、爺に相談すると、
「観光企画課に相談されてはいかがか」
と勧められた。
企画課ってたしか・・・
東大帰りの秀才さんじゃなかったかしら。
生天目(なばため)けいごは面倒くさそうにカミーネの相談を聞き、
「姫さまにしては面白い企画ですが、恐らく承認はされないでしょう」
失礼な物言いだが、カミーネは後半の方に反応する。
「何でよ?」
「私が、もっと素晴らしい企画をいくら提案しても、すべて却下されたからです」
「そんなの自分だけが素晴らしいと思ってるだけでしょーよ!」
売り言葉に買い言葉でおっぱじまってしまう。
「それではご自分の目で見て確かめてみてはいかがですか?」
「見せてみなさいよ!」
「では、」
けいごはそう言ってデカいバインダーを出してくる。
背表紙には企画(否)と書かれていた。
バインダーの中の✖の付いた沢山の企画書がある。
・茨の城漁業権再提案
・霞ヶ浦水質改善 鰻 養殖案
・TX筑波、近辺の商業施設再開発 大江戸から筑波へ
・フルーツライン認知PR企画 および道の停新設
・五浦温泉ファミリリゾート化計画
・・・・
・・・
・・
・
「す、素晴らしいわ・・・」
企画の大小を問わず完成度が高いとカミーネは感嘆する。
「わかって頂けましたかな」
「何でこれで企画が通らないの?」
「必要ないから!です」
「なにそれ~」
「現状で誰も困ってないから予算を掛けて変更する意義が認められないだそうです」
「あちゃー」
カミーネは右手を頭に添えて天を仰ぐ。
「理解されたならお帰りください」
「いえ、理解はしたけど、諦めてはいないわ」
扉を示すけいごにカミーネは瞳を見つめ返し拒否する。
「往生際が悪い」
「逆に承認された企画は?」
「・・・あります」
そう言ってけいごは別のバインダーを持ってくる。
・領内の祭保護の為の補助金
・領北部の蕎麦文化保護地域指定
・水産資源保護のための指定種漁業規制
・・・・
・・・
・・
「何これ?」
「・・・・」
「内向きの古いのばっかりじゃない!」
けいごが苦虫を嚙み潰したよう表情で言う。
「私が企画課に来てからは、企画らしい企画はなにも・・・」
けいごは顔を背け、握った拳が震えている。
「けいごは何をしているの?」
「ホームページの管理や領民からの苦情の処理などです」
「でも、企画が通らなきゃホームページも更新しようがないでしょうが」
「はい」
「何でこんなに内向きなのよ!」
「それは・・・姫様は幸福度指数をご存じか?」
「幸福度・・・って」
「はい、茨の城は中位からやや上位です」
「それって幸せを感じる人が多いってことでしょう?」
「そうですが、世界的に見ると先進国ほど低く、発展途上、後進国ほど高いです。
こう言ってはなんですが、アフリカの人の幸せとパリやニューヨークに住む人の幸せでは意味合いがかなり異なりますからね」
「なるほど、それじゃあ茨の城の幸せを考えないといけないわね」
「そう言うことです。
私の意見を言わせていただければ、
ある町に1軒のラーメン屋があり、皆がそこのラーメンが好きだとして、
他のラーメン屋の進出を否定するのが今の茨の城領の現状だと思います」
「他のラーメン屋が増えたら今あるラーメン屋が潰れてしまうかもしれないからね」
「そうです。10軒のラーメン屋がある方が選べる自由があり満足度は高いと思われますが、最初のラーメン屋の関係者やファンは不幸や残念な感情を抱くでしょう」
「そんなこと言ったら何もできないじゃない!」
「現状、そうなっておりますが、姫様、ご自分の身内の者がその最初のラーメン屋を営んでいたらどう思われますか?」
「他の出店は歓迎はできないわね、むしろ、来るなって思うかも」
「そういうブレーキが茨の城は強いと分析しました」
「・・・・けいご、優秀ね」
「ご理解いただきありがたき幸せ、ではお帰りくださいませ」
「いえ、まだ諦めないわ」
「悪あがきを・・・」
「私の意見は賛同できない?」
「賛同・・・・できます」
「ありがとう!けいご。なら集めるわ」
「何をですか?」
「もちろん、アクセルよ!」
カミーネは吹っ切れた笑顔で扉から出て行った。
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