四色目

「店で待ち合わせだって」

「行くかぁ」

 時刻は午後九時三十分。駅は帰宅する人と赤色のユニフォームを着た人でごった返している。そう。これが俺が帰宅することを選ばなかった理由だ。広島名物のカープラッシュ。平日のナイトゲームが終わると同時にマツスタから広島駅内は真っ赤に染まり、電車を使うともれなく身動きが取れなくなる。休日も同じで、デイゲームが終わる午後はなるべく電車を使わないのが吉、それが広島で上手く生きていく上での賢い立ち回りだ。

「スーツ動きづらくないん?」

「ちょっと窮屈ではある。慣れれば服選ばんでいいけ楽よ。」

「うぇ、俺絶対無理」

 他愛もない話をしながら俺達は駅へ帰る人の流れに逆らってぽつぽつと街頭が灯る道を歩いた。

この感覚、すごく懐かしい。小学生の頃、クラブチームの帰り道もこんな暗がりを三人で歩いて帰っていた。年頃の男子のくだらない話やプレースタイルの話、次の大会の話を大きな声でゲラゲラ笑いながら。自然と口元がほころぶ。あの頃から俺達は何も変わっていないのかもしれない。

 道の先に明るい頭の小柄な少年が立っているのが見えた。こちらに気がついたようでブンブンと腕を降っている。俺は気がつくと走り出していた。転ぶけ走るな!と叫ぶイブの声がやけに遠くに感じた。

「ユウ!会いたかった!」

「ハル!やめろ持ち上げるな!」

 彼は山本悠。身長がほとんど同じな俺とイブと比べて十五センチ程低い。頭の色はコロコロ変わり、この間見た時は明るい茶髪だったのに今はギラギラのピンク色になっている。少し焼けた肌に大きな瞳は中性的に見え、小柄なせいで幼く見られる。だが、見た目に反して面倒見の良い兄貴肌なのだ。三人でいると俺は弟のように扱われる。家では三兄弟の長男をしているのに何だかむず痒い。

 怒られてしまったので慌てて下ろすと後頭部に軽い衝撃が来る。

「ハル、急に走らんで」

 ゆっくりと歩きながらやってきたイブにはたかれたのか。

「ごめん、俺すげー嬉しくて」

「なはは!お前犬やん」

 目を細めて笑うユウははたかれた後頭部をよーしよし、と撫でてくれる。手が届かないかなとおもったので少し屈んだ。ユウは機械が得意でないイブに比べて、SNSを上手に使いこなしている。インスタの投稿やストーリーでよく見かけているのに最近は全く会えていない。ついつい懐かしさと嬉しさで頭がいっぱいになって駆け出してしまった。

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三幻色 狐偽 灯音 @kogiakane

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