第5話:那月の死。

那月が自分の彼女になってくれたことで拓人舞い上がっていた。

そういう時はなにをしても楽しいもの。

テンション上がりっぱなしで、その夜は眠れないだろうなって思っていた。


そして思ってもない事故が起こったのは夕方前のことだった。

那月は母親と二人でスーパーに買い物に出た。

スーパーまでは徒歩で10分、てくてく歩いてすぐだった。


ところが那月と母親が歩いていた歩道に一台のダンプが突っ込んで来て

横倒しになった。

一瞬の出来事だったが、目の前に迫ってくるダンプを見て那月は瞬時に母親を

突き飛ばした。


だから母親は那月のおかげで擦り傷だけで助かったが、那月は倒れたダンプの

犠牲になって突然亡くなった。


そんな事故のことも白ない拓人は、どうやって那月とエッチの疑似体験を

させてもらうか考えていた。

結局、拓人が歩道にダンプが突っ込んだ事故のことを知ったのは次の朝の

ニュースでのことだった。


「最近、多いよな・・・歩道に車が突っ込むって・・・」


そんなことをニュースで見ていたら拓人の母親が血相を変えて帰ってきた。

で、言った。


「拓ちゃん・・・あんた、天本さんちの那月ちゃん・・・亡くなったって・・・」


それを聞いて拓人は一瞬、固まった。

母ちゃんはなに言ってんだ?


「か、母ちゃん・・・なに言ってんだよ」

「那月が死ぬわけないじゃん」


そして拓人が最後に那月を見たのは葬儀の日、綺麗な花々に囲まれた棺に

入る前の彼女の姿だった。

拓人の天使は今にも目を覚ましそうなくらい穏やかな顔をしていた。

那月って声をかけたら目覚めるんじゃないかと拓人は思った。


「ようやく俺の彼女になってやるって言ってくれたのに・・・なんでだよ」

「こんなことってあるかよ・・・ひどいよ」

「俺ひとり残して逝きやがって・・・」


結局、拓人は那月が焼かれる姿がを見たくなくて火葬場には行かなかった。

それからの拓人は生ける屍だった。

どんなに悲しくても、否応なしに毎日はやって来る。


拓人以外の周りの人はいつもと変わらない。

飯は喉を通らない・・・那月とのことを思い出すと涙があふれた。

いくら泣いても那月は帰ってこないし、いくら泣いても涙が枯れることはない。


そんな拓人を母親は心配した。

拓は那月ちゃんを追って死ぬんじゃないかって・・・。


拓人の中にそんな思いがなかったかとは言えない。

だけど、自分まで死んだら母ちゃんが悲しむって思ったから、頑張って

思い止まっていた。

逆に那月のぶんまで生きなきゃ・・・じゃないと那月に怒られる。

恋人関係解消だからなって言われそうな気がした。


そして那月が亡くなって初七日・・・拓人は母親と一緒に天本家にいた。

出るのはため息ばかりだった。

何かを見ては、ため息・・・仏壇の那月の写真を見ては涙を流した。


俺の天使・・・最高の彼女・・・もう会えないんだよな・・・那月。

その夜も拓人は眠れないまま、ベッドから上半身だけ起こしてただうながれていた。

毎晩そんな感じだった。


「眠れる訳ないだろ・・・バカヤロウ・・・那月のバカ、まじバカだよ」


「人のことバカバカいうな拓!!」


え?那月の声?・・・拓人は一瞬そう思った。


「拓、開けて・・・ベランダのサッシドア・・・あ・け・て」


たしかに那月の声・・・がした方を拓人は見た。

そしたらベランダのサッシドアのガラスをコンコン叩く那月がいた。


「え?なんで?・・・なんで那月がいるんだ・・・死んでんじゃねえのかよ」


拓人は目の前の出来事に驚きながら急いでサッシドアを開けた。

ドアが開くといきなり那月が拓人に抱きついた。


「会いたかった、拓・・・会いたかったよ〜」


そう言って那月は泣きながらずるずるとカーペットの上にヘタレこんだ。


「那月・・・なんで?・・・ま、まさかだけど・・・おまえ幽霊?」


「違う・・・幽霊なんかじゃないよ・・・私はまだ死んでないから」


拓人には那月が死んでないって言った意味が分からなかった。


つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺にとって彼女は天使で、その制服姿は破壊的にエロい。 猫野 尻尾 @amanotenshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画