第19話 パートナーの責務

パーティーのパートナーとしてイレーネを連れていくと伝えられたエミリオは、一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐに納得した表情になった。

「まぁ、妥当なんじゃないでしょうか。イレーネなら万が一のことがあってもどうにかするでしょう」

「絶対反対されると思ったのに」

 イレーネが意外そうにいうと、エミリオは不機嫌そうに鼻をならした。

「これでも、おまえの実力は認めてんだよ。パーティーには人が多いから、どんなやつが紛れ込むかわからねぇ。パートナーってことならずっとアンジェロ様についていられるし、反対する理由がないだろ。そんなことより、パーティーに出るってどういうことかわかってんのか?」

 エミリオにきかれ、イレーネはキョトンとした表情をした。しゃべれない、という設定だし、ただアンジェロのとなりにいるだけではダメなのだろうか?

 「……おまえ、何も考えずにOKしたろ」

 発言の意味が分かってない様子のイレーネをみて、エミリオがため息をついた。その様子を見守っていたアンジェロが申し訳なさそうに口を開く。

「いくら無礼講、といっても最低限のマナーは身に付けてもらわなくてはならない。あとはダンスだ」

「そういやさっきいってたな。絶対踊らなくちゃいけねーのか?」

「必ず、というわけではないが……。今回は君を婚約者だと紹介する意味合いでも、踊っておいた方が無難だろう」

「まぁ時間はあるし、がんばるさ」

 思っていた以上に大変そうだが、一度承諾してしまった手前撤回はできない。パーティーは一ヶ月後だそうだから、頑張ればなんとかなるだろう。イレーネは前向きに考えることにした。

「令嬢としてのマナー指導はセレナに頼もう。彼女は幼いころから私の家に使えていてね。そういったことには精通しているんだ。ダンスは……エミリオ、頼めるか?」

「任せてください、アンジェロ様」

「エミリオ、おまえ、踊れんの?」

「バカにすんなよ。俺だって社交の場で浮かないくらいの知識はあるんだからな。戦闘の

 ことしか頭にないおまえとはちがうんだよ」

 エミリオがニヤリと笑みを浮かべながらいった。どういった経緯でアンジェロに仕えているのかは知らないが、貴族の護衛として最低限の教育は受けているようだ。最低限の知識はオスカーに教わったが、他に教育を受ける機会がなかったイレーネはちょっとだけ羨ましく思った。

「では、お願いしよう。エミリオもイレーネも、他の仕事はしなくていい。準備に専念してくれ」

「わかった。……エミリオ、よろしくな」

「だから、『様』をつけろって。……もういい、やるぞ」

 悪びれない様子のイレーネに、エミリオが折れた。イレーネはご機嫌にエミリオの肩を叩く。マナーの教育は気が重い。しかし、上手くやればエミリオの鼻があかせるだろう。悔しそうなエミリオの顔を想像して、イレーネは表情を緩めた。 

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