第2話 おとなになろう!!!

「なによこれ?」


途方もなく続いている巨大なベルトコンベアに言葉を失う。ていうかこれどういうこと?ここはどこなの?私の家は?部屋は?一体どうなってるの?


「桜井香奈さんですね?お待ちしておりました」


「はにゃっ!!??」


急に話しかけられ変な声を出してしまった。不覚。後ろを振り返るとそこには20代半ばくらいの男が立っていた。


自分以外の人間がいることにまず安心する。そしてすぐに今の状況を知りたい衝動に駆られた。


「ここはどこなんですか?なんで私はここにいるんですか?私の家は?スマホは?ていうかなんで私の名前知ってるんですか?ドッキリ番組か何かですか?あ、ドッキリ番組ならモニタリングが好きです」


思い浮かんだことが勝手に口から溢れ出ていく。私の怒濤の質問にも動揺することなく、男は微笑みながら頷いていた。なんだ?おとなの余裕ってやつか?腹立つな。


「そうですね。まず言っておきたいのは…モニタリングは私も好きです」


そこは一番どうでもいいわ。


「ですが残念ながらこれはテレビ番組などではありません。川口春奈がワイプで見ているわけではございません」


「じゃあこれは一体…?」


「今からあなたにはベルトコンベアに乗ってもらいます。あなたも今日からおとなになるのです!!!」


……はぁ?こいつは何を言っているんだ。ベルトコンベアに乗っておとなになる。こいつは満面の笑みで両手を広げながらこう言った。


そっか、わかったぞ。こいつ、不審者だ。危ないタイプの人間だ。ずっと変だもん。終始ニヤニヤしてるのも気持ち悪い。不審者はお母さんに知らせなくちゃっ!!


「へぇーそうなんですねー。教えてくれてありがとー。じゃあさいなら」


「どこに行くんですか?」


男は肩をガシッと掴んできた。見た目はひ弱そうだけど、しっかりおとなの男の力だった。逃げられそうにない。


やばい。怖い。掴まれて怖いのはもちろんだけど、こいつ掴みながらずっと笑ってやがる。なんだよサイコパスかよ。


「痛いです。離してください」


「君が逃げようとするのがいけないんだよ。僕だって危害を加えたいとは思っていない。ただ僕は君にベルトコンベアに乗って、おとなの仲間入りをしてほしいんだよ」


だからそれが意味わかんねぇんだよ。


「どうしてずっと笑ってるんですか?何がそんなに楽しいんですか?」


それを聞くと、男はグッと顔を近づけてきた。変わらず満面の笑みだったけど、目の奥は一ミリも笑っていなかった。


「楽しいから笑うんじゃない。笑うべきときに笑う。それがおとなになるということだよ」


男は腕を掴んで、ベルトコンベアの方に引っ張っていこうとしてきた。


「痛い!!やだ、離して!!!離せおっさん!!!やめろって!!!!!」


男は聞く耳を持たない。腕を振りほどこうとしても無駄だった。このままだったら連れて行かれてしまう。ベルトコンベアが何なのかはわかんないけど、このまま乗らされるのは危険な気がした。


どうにかしないと。何か何かないか。こいつから逃げ出す方法が。


そのときだった。


「何しとんねんボケ!!!!!!!!」


ベチーーーン!!!と男の頭をぶん殴る音が辺りに響き渡った。あまりの威力で叩かれたため、男は地面にうずくまっていた。


「ったく。悪かったな姉ちゃん。ホンマ堪忍してな」


そこにはパッチリお目目で、まつげがクルクルで、めっちゃくちゃ可愛いくて、手のひらサイズで、関西弁の妖精が立っていた。


いやもうマジでどういうこと???

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2024年12月14日 23:00
2024年12月17日 23:00

ベルトコンベア 今西浩己 @koukiima

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