では、実際に川を歩きましょう。

第6話 梅ヶ丘駅〜東海寺



11:05


 貴方は、東京都は世田谷区、小田急線の梅ヶ丘駅にいる。

ここから、長い長い旅にいくのだが、行き先はまだ告げない。どこまで歩かされるのかも、まだ教えない。


 でも大丈夫だ。ナビなら任せてほしい。この川の事は熟知しているし、貴方の格好も万全だ。

スマホも財布も、私が持っているから心配しないでいい。そして貴方が履いているのは、履き慣れた運動靴だ。


 今日歩く川は、比較的難しいルートはない。その代わり川沿いではなく国道をそこそこ歩くことになるので、

歩き慣れた靴が一番だろう。

小春日和のとは言え、冬の真っ只中だ。少し厚着してきたほうがいいと言う私の言いつけも、貴方は守ってくれた。


 準備は万全。では、川部最初の活動といこう。


 我々は、梅ヶ丘駅の改札で待ち合わせた。まずは改札を出たら左に曲がり、駅の南口を出よう。

梅ヶ丘は、かつて東京郊外の農村地帯だったが、戦後の都市開発でベッドタウンとなった

ちなみに都市伝説では、『梅』と『が丘』がつく地名は、過去に曰く付きの事件が起きたとされるからあまり住まない方がいいと言われているが、

ここには業務スーパーをはじめとして、安売りのスーパーが乱立しており、下北沢も明大前も近い。

つまり新宿にも吉祥寺にも渋谷にもすぐ行ける非常に住みやすい場所だと思う。


 南口を出たら、下北沢方向に少し歩こう。

数メートル。すると、桜がさく小道が見えてくるはずだ。

気が早いもので、まだ年末なのにもう花びらをつけ始めている木がある。


 小道を行くと、大きな道路にぶつかるだろう。

それは宮前橋交差点だ。

そこの横断歩道を渡れば、北沢川緑道である。


 北沢川緑道は静かな散歩道としてここらでは知られている。

「川」と言っても、チョロチョロとした、小さく静かな川だ。その川に沿って緑道は続く。

それでも昔は大きな川があったようで、北沢川の跡地を整備して作ったのがこの「北沢川緑道」のようだ。


 左手を見れば大きなお寺がある。

それは円乗院と言うお寺だ。正式名称は稲荷山円乗院といい、浄土宗に属していおり、江戸時代に創建されたのだそうだ。


 このまま、チョロチョロと流れる自然豊かな北沢川をしばらく降っていくとしよう。

かつてはここら一帯の農業や生活用水として重要な役割を果たしていた川のようだが、今では我々の癒しとして、

心を守ってくれる。


 大きな岩が目につくだろうか。そこには『文学の古路』と掘られているはずである。

この辺りは、かつて多くの文学者や文化人が住んでいたことで知られており、その名残を感じさせる場所である。


 しばらく緑道を行けば、また大きな道路に遭遇するはずだ。それは私の記憶が正しければだが、

茶沢通りのはずである。横断歩道を渡れば、左手には世田谷区代沢小学校が見える。

この辺りは本当に桜が綺麗なのだ。少し、くるのが早かったかもしれない。



11:40


 緑道という桜並木を歩けば、しばらくすると、

三叉路に出るはずだ。

それは、「北沢川緑道」「烏山川緑道」「目黒川緑道」の三叉路である。

いっぺんに三つの川の名前が合流する三叉路とは、なかなか神話じみた物語を感じる。

そこはかつて、北沢川と、烏山川が合流し、目黒川となる場所があった。

現在は整備され、緑道となったのである。

近年では清流復活事業によって水質が改善され、魚類や鳥類の生息地でもある。

わきにチョロチョロと流れる川を覗いてみれば、大きな鯉が泳いでいるのがわかるであろう。

我々は、目黒川緑道を進む。



 頭上を、首都高速3号の高架が通っている。

横断歩道を渡れば、いよいよ目黒川のお出ましである。



11:55


 目黒川は、東京でも有名な花見スポットであり、オシャレなカフェが沢山ある。

川部以外の目的で、誰かとデートできても、それはそれは意識の高いデートができるだろう。

おすすめ。

そして、目の前に、赤く美しい橋が見えるはずだ。

それこそが、中の橋である。


 春の中の橋は本当に美しい。桜並木に赤い橋が実に「映える」。

辺りにおしゃれなカフェ・レストランは沢山あるが、

中でもスターバックス リザーブロースタリー東京がある。

2019年にオープンした日本初のロースタリーで、世界で5店舗目なのだそうだ。

建築家、隅研吾氏がデザインし、4階建で各フロアに自慢のコンセプトがあるらしい。




12:05


 桜並木の中に高架が現れたら、そこは目黒駅だ。

私たちは今回、梅ヶ丘からこの度をはじめたわけだが、道中の道々に興味がなければ、目黒駅からこの旅を始めてもいいのかもしれない。


12:11


 さて、さらに川を降ると、舟入橋にたどり着き、いよいよ川幅が一段と大きくなる。

橋の向こうに見える、水門のような公園は、目黒区民センターだ。

広々とした敷地内にスポーツ施設や子供向けの遊具もある。


12:28


 幅の広くなった川を降ると、目黒新橋に着く。大きな道路にあたるはずだ。

横断歩道を越えると、目黒警察署の下目黒交番があり、近くに公衆トイレがある。

川部たるもの、トイレがあったら行くべし行くべし。

交番の裏手に出れば、再び川沿いを歩くことができる。




12:46


 そして山手線は五反田駅にたどり着く。駅周辺はオフィスビルや商業施設が立ち並び、

活気がある。


12:52


 すでに2時間近く歩いている。まだまだ旅は序盤である。

ここで我々が辿り着いたのは、五反田ふれあい水辺広場だ。山手線大崎駅は目と鼻の先である。

ここは人工芝が敷かれた広場で、周辺には高層ビル群が立ち並ぶ。今は昼だが、夜は夜景のスポットとしても知られているし、

夜桜がライトアップされたりもする。


 我々川部は、夜景だの、カフェだのに現を抜かさず、ただ歩くのが目的であるゆえ、

名残惜しみながら先を急ぐ。

居木橋をわたり、山手線の高架をくぐれば、国道はカーブしているのだが、我々ウォーカーは直進した小道をゆく……のだが、

この日は工事をしていて通れない。

川部の宿命で、工事には逆らえないのだ。

川部あるある、と言ってもいい。強行突破するわけにもいかないので、大人しく迂回しよう。



 国道沿いをしばらく行くと、東海小学校跡地がある。

ここからまた川沿いにアクセスできそうだ。

東海小学校とはかつてこの地に存在した学校であり、今は遊具の沢山ある公園になっている。

管理事務所と、何より公衆トイレがある。

トイレがあったら、行くべし。これが川部の掟である。


 川沿いにぶじ出れたら左側を見てほしい。

それが東海寺である。臨済宗大徳寺派の寺院で、山号は万松山。寛永15年に三代将軍徳川家光が、

沢庵宗彭のために創建した大寺院である。

当時の時代の面影も外観に残しており、

まるで当時にタイムスリップしたかのような景色を味わえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る