第33話 クズでも好きらしい
「つっじのさ〜ん!」
休みも明け、眠たい体とともに来た学校。
HRが始まる前、隣の席の少女の元へ元気よく話しかけに行くのは遊園地で迷子になっていた和人。
「あの後どうなった!?」
「あの後……ですか……?」
戸惑い気味の言葉は不意にこちらを見つめ――バチッと目が合った俺達は視線を逸らし合う。
「おっ!?その感じ!もしかして!?」
目を輝かせる和人は俺の顔と辻野さんの顔を交互に見やる。
けど残念。答えは和人が期待しているようなものではない。
「そ、その……」
「うん!」
「あの……」
「うんうん!!」
「えーっと……」
「うんうんう――」
「もどかしいな!あの後も付き合ってねーよ!」
「……え?」
バッと和人に顔を向けた俺が答えてやれば、落胆した表情が和人の顔いっぱいに広がった。
「つ、付き合って……ないの……?」
「付き合ってない。土曜日に言った通り、俺は好きじゃない」
「じゃ、じゃあ……なんでそんな、ぎこちないの……?」
「…………色々合ったんだよ」
「その色々を教えて!?」
「……むり」
土曜日のあの夜。
辻野さんの唇が頬に当たった時から、俺達の間には気まずさが漂っている。
なんどか目を合わせることは合ったのだが、先程のようにどちらからともなく目を逸らしてしている。
「えー!気になるじゃん!」
「気にしなくていいよ。大したことじゃないから」
「いーや!これは大したことあるね!俺の勘がピンピン唸ってる!」
「はぁ……。勘が唸ってんのか……」
「そう!ってことで教えてくれない?あの後、2人の間でなにがあったの?観覧車の中でイチャイチャしてたけど、なにしてたの?辻野さんの胸に手を当ててたけど、どんな事を話したの?」
ギョッと目を見開いたのは俺だけではない。
視界の端で信じられないと言わんばかりに口を抑える辻野さんは俺と和人の顔を交互に見る。
「……なんで知ってんだよ……!」
「だって後ろのゴンドラに乗ってたの俺だもん」
「なんで声かけなかったんだよ……!!」
「だって楽しそうだったから」
「それでもかけろっての!!」
バシッとデコを叩く俺は、ポーズはそのままで机に突っ伏した。
「ただ俺たちが恥ずかしい思いしただけじゃねぇか……!」
「いいじゃんいいじゃん。それで?なにがあったの?」
そんな俺の頭上へと移動してきた和人は「ねぇ〜」と肩を揺する。
チャイムが鳴るまで待つか……?なんて作戦も脳裏を過るが、生憎和人は前の席。
チャイムが鳴った所で聞かれ続けられることに何ら変わりはない。
(じゃあどうする……?)
思考が詰まる。
チェックメイトと表現しても何ら変わりがないほどに、この状況は手詰まりだった。
「……あの」
不意に聞こえてくるのは救世主――とは言えない、怖気づくような声。
「あ、もしかして辻野さんが話してくれるの?」
椅子を引きずりながら近づいてくる辻野さんに、揺さぶる手を止めた和人は綺羅びやかな瞳を向ける。
「その……なんと言いますか、崎守くんがひとつ、私に提案をしてくれたんです……」
「……辻野さん?それ言っちゃう――」
「どんな提案!?」
完全に辻野さんの虜になった和人は肩から手を離し、鼻息を荒くさせながら辻野さんを見る。
そんな鼻息に釣られるように突然椅子から腰を上げた辻野さんは顔を上げた俺の背後へと周り、
「なんと言いますか……まぁ、お見せしますね」
――チュ
刹那、頬に当たるのは土曜日に感じたそれと同じもの。
「は!?」
「え?」
俺の叫びと和人の困惑する声が重なる。
だってそうだろう。
突然人の前で、頬にキスをされたのだから。
「その……崎守くんが提案したのは、『チャンスはあるから、アタックしてこい』というものです……」
真っ赤になった頬は俺の顔から離れていく。
それと同時に熱くなる俺の頬は頭上に居る辻野さんへと向けた。
「わざわざ実践する必要あったかな!?」
「じれったかったですので……」
「だからといってする必要はないと思うけどなぁ!?」
俺達の間にあったわだかまりはどこへ行ったのやら。
しっかりと視線が交差する俺達は、赤くなった頬で言葉を発し合う。
「えーっと、つまり……優夜?」
「なに!?」
不意に名前を呼ぶ主へと勢いよく顔を向ける俺。
そんな俺に、ジトッとこの上なく湿った瞳を向ける和人は――
「優夜がクズだってことだね……?」
「こうなるから言わなかったんだよ……!!」
心底軽蔑する目は俺の心を抉り、突然腕に抱きついてくる辻野さんは、
「好きな人をクズって言わないでください……!」
弁明をしてくれる。
なんともカオスなこの状況は、チャイムが鳴ってもなお静まることはなく、中心部に居る俺を筆頭に教師に怒られるのだった。
意図的にラッキースケベを狙ってたら、標的が自ら求めてくるようになりました。……すみません。責任を取るつもりはありません せにな @senina
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