第36夜 御用改め
各隊、隊長を先頭に隊士たちが整然と列を成し集合する。彼らの視線をまっすぐに受け止めた組長は、ゆっくりと全員の顔を見渡した。
期待と興奮、緊張に満ちたまなざしが、今か今かとそのときを待っている。
「さて諸君、今宵はなかなかに忙しくなりそうじゃ。我らが輝真組の威信をかけるに、またとない機会である」
普段は出動に際してあまり姿を見せない組長からの激励に、隊士たちの士気が高まる。それほどまでに、今夜の出動は重要なものだった。
「すでに聞きおよんでいるとは思うがの」組長が笑みを携えたまま、ひとつ咳払いをする。
「今夜、忠軍内部におけるすべての派閥の代表が出席する大規模な会合がひらかれる。これは捕縛した浪人からもたらされた、確かな情報じゃ」
先日捕縛した二人の浪人。彼らが過激派を代表する八田一派の人間であると判明するのに、そう時間はかからなかった。そこから連日の拷問と言葉巧みな誘導で、今回の会合の情報を引き出したというわけだ。普段は相容れない仲である過激派、穏健派、保守派が一堂に会するとあって、事前に情報が伝達されていたことが仇となったようである。
市中の治安を維持する輝真組として、この機を逃すわけにはいかなかった。うまくいけば、忠軍の幹部連中を一網打尽にできるかもしれないのだ。
「この輝真組本陣はわしが守るでな。安心して行ってくるがよい。じゃが、よいか? くれぐれも、無茶はするでないぞ?」
「「「はい!!」」」
声をそろえて応えた隊士たちに、組長はにっこりと顔をほころばせた。そうして隣に控える徹也に目配せすると、ひとつ大きくうなづいて一歩うしろに下がる。
あとの指示を任された徹也は、居並ぶ隊士たちを前に声を張った。
「会合がひらかれる可能性のある場所は二ヵ所。ひとつは、
料亭『千歳庵』は、八田一派の浪人が口にした場所である。情報の裏を取るために調査をすれば、たしかに瓦町周辺に忠軍の幹部連中が集まってきているらしかった。
旅籠『梅木荘』は、その調査で見つかった違和感である。どこの旅籠も、常に人の出入りがあって当然だ。しかし梅木荘だけは、今夜に限って客を断っている。満室でないにかかわらず。
これには不審と言わざるを得ない。そこで徹也は、会合場所が梅木荘に変更されたのではないかと危惧したのだ。
「じゃあどっちかが当たりってことですね。どっちに踏みこむんです?」
可能性がある場所がふたつ。いまのところ、どちらにも忠軍の出入りが確認されている。もし間違ったほうへ踏みこめば、一網打尽どころか全員を取り逃がしてしまうことにもなりかねない。
聖の言葉に、隊士たちの目に不安がよぎった。
「今回は、組をふたつに割る」
徹也が下した決断に、一瞬空気がざわめいた。しかしすぐにそれは、男たちの熱気に包まれて静寂へと姿を変える。
「確実に追いこむためには、これが最善だ。壱番隊と弐番隊は、千歳庵へ向かえ」指示に聖と龍三が短く返事をする。
「参番、肆番、伍番隊は梅木荘へ行く。隊長不在の肆番隊は、副隊長の
哉彦に続いて、大原と伍番隊副隊長の
徹也は全体を見渡すと、ひと息に吸い込んだ空気に低い音を乗せて一気に吐き出した。
「てめぇら! 抜かるんじゃねぇぞ!!」
「「「ぅおおぉぉおおぉぉ!!」」」
力強い雄叫びが、帳の下りた市中に響き渡った。
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