第19夜 騒々しい夜
「「「うおぉおおおぉぉぉ!!」」」
「「「すっげぇえええぇぇ!!」」」
その日の晩、大広間に集まった隊士たちは声を合わせて開口一番にそう叫んだ。それはもう近所迷惑になりそうなほどのどよめきである。
そのあまりの歓声に、中央廊下をはさんだ小広間で巴はおもわず苦笑する。こちらの部屋でも、誰よりも声を響かせた哉彦と耕平がもれなく徹也に後頭部を叩かれていた。自業自得である。
「これ全部巴が作ったのか?」
「いえ、隊士のみなさんが手伝ってくれましたから」
座卓に所せましと並べられた人数分の夕餉に、あちこちで興奮の声が上がっていた。
脂の乗った焼き魚に根菜の煮物、湯気の立ちのぼる吸い物には柚子の皮が彩りを添える。
「茄子の煮びたしに揚げだし豆腐まであんじゃん! うまそぉー!」
「ほっほっほっ、哉彦くん、お座りなさい」
感嘆の声が止まらぬ哉彦に、組長がおだやかに着席を促した。目をキラキラさせ、まるで主人の許可を今か今かと待つ犬のようにそわそわしている哉彦の姿に目を細めながら、組長は静かに手を合わせる。
「いただきます」
「「「いただきまーす!!」」」
声を合わせて合掌すると、みな我先にと並べられた皿に箸を伸ばした。
「うんめぇ!」
「へぇ、これならいつでも嫁に行けるんじゃねぇか?」
「ほんとにねー。巴ちゃん、おかわりもらうね」
「あ、はい」
聖の言葉に腰を浮かせれば、隣に座っていた徹也に止められる。
自分の碗を手に立ち上がった聖は、下座に置かれた飯櫃からこんもりと白米をよそっていた。
「あ! 聖! おれのも残しとけよ!」
聖に続けとばかりに哉彦が列を作り、その隙に耕平が哉彦のおかずに手を出していた。龍三は組長と徹也とともに、ちびちびと酒を酌み交わしている。
「巴さん、まじでうまいっす!」
「米が! 米がめっちゃ進む!」
「隊長ー、そっちの米もらってもいいっすかー?」
「はぁ? お前ら食いすぎだろ!?」
「「「だって巴さんのごはんがうまいんすもん!!」」」
続々とおかわりの列に並ぶ隊士たちの姿に、巴はおもわず顔をほころばせた。こんなにも「おいしい」「おいしい」と言われると、なんだか照れくささもある。
「楽しいか?」
隣に座る徹也にそう問われて、巴は素直にうなづいた。こんなにも大人数で食事を囲むなど、いままでにあっただろうか。ただ騒がしいだけとは違うにぎやかさに、こういうのも悪くないと言えば、徹也は「そうか」とだけ返して小さな笑みを浮かべていた。
「「「後片づけは俺たちに任せてください!」」」
巴が片づけのために腰を上げるや否や、そう声をそろえる隊士たち。彼らの手には、重ねられた茶碗や皿が乗った大きな盆。その奥で、きれいに完食された飯櫃がそそくさと厨へと運ばれていく。
「あの、でも……」
「あんなにうまいメシ食わせてもらったのに片づけまでしてもらったんじゃ、申し訳ねぇっす」
「あー、巴さんのメシなら毎日でも食いたいなー」
「巴ちゃん、いまのうちにお風呂入ってきたら?」
どうしても後片づけを手伝わせてくれない隊士たちに戸惑っていれば、聖からの追撃である。続くように猪口から唇を離した徹也が、徳利を傾けながら口をひらく。
「片づけはもとから隊士の仕事だ。お前は気にせずゆっくりしてろ」
副長にまでそう言われてしまっては、もう流れは変えられないではないか。巴は恐縮しながらも厨を隊士たちに任せると、聖の提案に短く返事をした。
「哉彦が覗かないように見張っててあげるね」
「覗かねぇよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます