第24話 覚醒した悠斗
「えっ、アイツがCランクに?」
「はい、以前のことがありましたので、厳密に鑑定いたしましたが、間違いないと」
どういうことだろうか。悠斗の能力ではCランクの課題である上層ボスの討伐など、天地がひっくり返っても無理なはずだった。五郎や結衣が突出しているが、基本的にFランクの駆け出しパーティー並。それがよりによって一人でCランクの条件を満たすなど、普通では考えられないことだった。
「一体何があったんですか?」
「それが、協会もまったく把握していなくて……。本人は『俺の力がやっと世間に認められた!』と言っているようなのですが。それもあって、探索者協会は不当な評価を探索者にしているのではないか、とマスコミに追及されているんです」
確かに、急に頭角を現したような状況を考えると、探索者協会の非があると考えてもおかしくない。何より、探索者協会はマスコミの介入を嫌っていて、情報を公にしないから余計だろう。叩けるうちに叩いてしまえ、というマスコミの願望が見え隠れしていることに、同情を禁じ得ない。
「それで、影野さんも少しまずいことになりそうです」
「なるほどね……」
直接的ではないものの、私も例の断罪劇に間接的に関わった人間の一人だ。特に悠斗は清掃員を低く見ている。もっとも、公式には清掃員と探索者は対等と言われている。だが実力主義の業界ということもあり、清掃員は見下される傾向にあった。
「今は水際で食い止めていますが、影野さんのところにもマスコミが押しかける可能性があります。ですが、それ以上に……」
「アイツが何か仕掛けてくるということ、か……」
「はい、彼は本日、会見をすることになっていて。協会だけでなく、彼のパーティーメンバーの愛菜さんと花蓮さん。そして影野さんと山本さん、広瀬さんは名前が出る可能性が高いと見ております。協会としても、個人情報の観点からマスコミに圧力をかけておりますが……」
「諸悪の根源からの圧力には屈しないと」
「はい……」
それはそうだろう。マスコミは権力に対抗するという建前で記事を書くのだから。実際は、金に踊らされて、誹謗中傷することに喜びを見出すような奴らだ。
「まあ、それはそうよね。でも、自体の鎮静化には協会も協力してくれるのよね?」
「あ、はい。それはモチロンです。ですが、当面は耐えていただくより他には……」
「まあ、それは仕方ないでしょうね。それで済めばいいんだけど……」
マスコミが悠斗側についている上に、協会は後手に回らざるを得ないことを考えると、しばらくは耐える必要があるのはやむを得ないだろう。だが相手は、あの悠斗である。清掃員を下に見るような思想。断罪劇では探索者の自分の発言よりも清掃員の私の発言が採用された。そのことに明らかに不満だった。
「何も無ければいいけれど……」
こうして迎えた、その日の午後。協会の横暴な対応によりFランクに落とされ、パーティーメンバーに裏切られた探索者が、一人でCランクまでのし上がった。そういう体での会見が行われた。
カメラのフラッシュが焚かれる中、悠斗と弁護士と思しきスーツを着た男が入ってきて用意された椅子の前に立つ。彼が笑顔で手を振ると、一斉にフラッシュが焚かれた。
「皆さん、この度はお集まりいただきありがとうございます」
着席してすぐ、悠斗の声に記者たちが静まり返る。記者の一人が前に出てきて、登壇した。どうやら、彼が今日の司会役のようだ。
「本日は、こちらの桜井悠斗様が探索者協会との確執。その全容についてお話しいただけるとのことです。司会は私、
こうして始まった会見は予想通り、探索者協会に不当な言いがかりをつけられたこと。それによってパーティーをFランクへと降格されたこと。降格されたことで、パーティーメンバーが自分を見捨てたこと。探索者である自分の言葉よりもただの清掃員の言葉を信じたこと。私たちを糾弾するような内容だった。
「それでは、ここで一旦、質問タイムとさせていただきます」
その言葉で始まった質問タイムの内容も酷かった。反論する人間が誰もいない。そんな中で飛び交う質問。おのずと一方的なものとなる。
その後は、彼がCランクに上がるまでの苦労――と言っても断罪されたのが一昨日の話だから実質一日だが――についての話となった。
追放されて失意の彼が、偶然出会った『マスター』に才能を見出され、たった一日にして単身Cランクに上がれるほどの力を引き出されたという話だった。
「マスターの話によれば、俺の溢れる才能により、力を引き出すことができた。だが、マスターの指導によれば、誰でも力を引き出せるようになるとのことだ。もちろん、俺のような才能の塊には及ばないだろうがな」
悠斗の言葉に会場が騒めく。いくら彼に才能があるとはいえ、元Dランクパーティーだった人間が一日で単身Cランクまで上がったのだ。しかも、それが誰にでも実現可能だと言うのだから、浮足立たない方がおかしい。
「そのような事は、可能なのでしょうか?」
さすがにマスコミの中にも懐疑的な人間がいるようだ。半信半疑の様子で彼に質問を投げかける。だが、彼はわずかに笑みを浮かべるだけだ。
「もちろんです。以前はCランクにパーティーでやっと上がれるかというくらいの俺が、たった一日で単身Cランクに上がったわけですから。いままで努力してきた人たちも、マスターの助力があれば、すぐにでも新しい未来を掴むことができるでしょう」
「それなら、ぜひっ。わ、私を……」
「ズルいぞ! 抜け駆けしようとするな!」
「待ってください、ここは公平に……」
彼の言葉にマスコミの記者たちが一斉に名乗りを上げる。それを両手で制しながら。ゆっくりと口を開いた。
「そんな焦らなくても大丈夫です。最初は数名から始めると、マスターは仰っておりました。だが、すぐにあなた方も力を手にすることができるようになるでしょう。ですが、その前に……」
彼はカメラ目線になると、カメラに向けて人差し指を向ける。
「俺の力、それを皆様方に見ていただきましょう。相手は……俺を貶めた清掃員風情。あの女を血祭りに上げることで証明します。せいぜい、首を洗って待っていろ!」
私への宣戦布告をもって、会見は終了した。その後、会見について探索者協会に確認をしたところ、会見で名指しされたことで拒否することは難しくなったと言われた。適当なところでギブアップをすればいい、と言っていたが……。
「まったく、それで納得するはずないじゃない。さて、どうしたものか……」
私は、どうやって収めるかを真剣に考えることにした。
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ダンジョン美化計画~ゴミもモンスターも一掃します!~ ケロ王 @naonaox1126
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