第4話

    ***


(やっと……ここまで来ることが出来た)

 エミールは留学中に借りている自室の執務机に座りながら、自分の手をぎゅっとにぎりしめると、自分のおもいをフレデリカに伝えることが出来た嬉しさを実感していた。

 想いを伝えるどころか、今日の昼食時にはフレデリカさんから自分と向きあってくれるという言葉まで引き出せた。これはかなりの進歩だ。

 フレデリカさんは真面目で責任感が強く、人が真剣にやっているどんなことでもちゃんと向きあってくれる。これはいつしよに研究をするようになって感じたことだった。そんなフレデリカさんが大好きだ。

 僕がこの研究室に入り、はつこい相手のフレデリカさんと一緒に過ごせるようになって夢のような日々だったが、ふとしたしゆんかんに自分の想いが暴走して口をついて出そうになってしまう。そのたびに彼女がほかの人の婚約者だということをきつけられるのだ。

 今まで、フレデリカさんはアーネスト殿下の婚約者だったために、自分の想いを告げること自体が罪だった。

 彼女から殿下の仕打ちを聞いた時は、僕が婚約者だったらそんなことはしないのにと、いかりでおかしくなりそうだった。いっそのこと彼女をさらって、自国に連れて帰ってしまおうかと鹿な考えがよぎるほどに。

 彼女はそんなことは望んでいないと必死にみとどまったが。

 それに、この国はフレデリカさんのすごさをわかっていない。どうが下に見られる風潮は世界的に存在している。しかし、ここ最近はじよじよに変わってきたのだ。

 技術力が格段に上がり、近い将来魔道具は魔法をえる。魔石の限界はとつ出来そうな段階に来ているのだ。気づいている国はすでに、魔道具開発にけた人間を囲い込むよう動き始めている。

 正直言ってフレデリカさんは規格外の天才だ。だが、この国にいることでかなり制限されてしまっている。魔道具研究室はれいぐうされ研究機材も、素材も、研究費もかなり少ない。

 そしてなぜかフレデリカさんは、今まで世界のどこにも研究内容や論文を発表したことがない。おかげで彼女の凄さを、まだ世界のどこにも知られていないし、彼女自身も気づいていない。もし知られたら、この国は彼女をがしはしないだろう。僕にとっては好都合だが、歯がゆくもある。

 僕が今自国に造っている研究せつでフレデリカさんに存分に研究をしてもらい、制限がないじようきようで彼女にかがやいてもらいたい。僕はそれを可能にする力を持っている。

 留学期間が終わるまで後三ヵ月しか猶予が残されていない。それまでに、フレデリカさんにけつこんしようだくしてもらい自国に連れて行きたい。

 プロポーズ自体は、元より承諾してもらえるとは思っていなかった。

 人のことを好きになることがわからないフレデリカさんは、まだ僕との結婚を判断出来る状態ではない。自分のことを好きになってもらう前に、『好き』とは何かということを理解してもらう必要がある。

 僕にとってあのプロポーズは、フレデリカさんに意識してもらうためと他人へのけんせいの意味あいが大きい。研究室でのプロポーズで、明日あしたにはうわさが広まってくれるはず。

 婚約者がいなくなったフレデリカさんをねらう貴族は多い。国内のきんゆう業、造船業、鉱業、貿易などあらゆる分野できよだいな権力を持つローレンツこうしやく家と、えんせきになりたいと思う貴族は多いだろう。

 そこで、僕がプロポーズを真っ先にすることで、ある程度フレデリカさんへの求婚者をつぶすことが出来る。まだ他の求婚者が出ていないことはあくしている。

 貴族社会のいやなところだが、フレデリカさんの言う通り貴族の結婚の決め手は条件だ。フレデリカさんに言い寄るのならば、僕より良い条件を提示する必要がある。

 しかし、僕より良い条件を提示することが出来る人はかなりしぼられるだろう。金銭的な条件はもちろん、フレデリカさんの能力を最大限引き出せるのは僕しかいない。彼女の願いをすべかなえられる自信がある。

 それでも彼女に言い寄るような身のほど知らずが出た場合は、どんな手を使ってでも全力ではいじよするしかないけれど。出来ればそんなことが起こらないでほしい。

 もし、フレデリカさんに知られたら引かれてしまうから。こんな僕のことは知られたくない。

 しかし一番の課題は、フレデリカさんの気持ちだ。数ヵ月一緒に過ごしたが、フレデリカさんは僕のことを男だとにんしきしておらず、単なるこうはいとしか思っていない。

 まず、一人の男だと思ってもらうことが第一歩だ。

 今までは婚約者がいて動けなかったが、やっとえんりよなく動くことが出来る。

 まずは、フレデリカさんをさぐって彼女の望みを引き出さないと。どんな小さなことでも願いを叶えて、最終的には僕がいないと困るように囲い込んでいきたい。

 ──そうすればきっと、彼女の方から僕を求めてくれるようになるから。

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婚約破棄された研究オタク令嬢ですが、後輩から毎日求婚されています nenono/角川ビーンズ文庫 @beans

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