第4話

「───ってことが、あってね~」


「ウソだぁ。それは可笑おかしいよ、睦美むつみちゃん」


 どういうワケか、姉貴とたちばなが意気投合してしまった。これは由々しき事態だ。俺の交遊関係に姉貴が侵食してきたことは大変な脅威だが、今はもっと脅威的なことが起こりつつある。既に俺の視界に、高校の校門が入ってしまっているのだ。


 相変わらずベラベラと喋り続けている姉貴。このままでは校門に辿り着いてしまう。一体どうするつもりなのだろうか。校門の前できびすを返すのは、不自然極まりない。かといって、校門を通り抜けるのは不法侵入に該当する筈だ。それはもう、犯罪行為である。まさか、こんな馬鹿げたことのために、姉貴は犯罪者になるつもりなのだろうか。


「いや~、橘ちゃんは面白いねぇ」


「そんなことないよ。睦美むつみちゃんの方が面白いよ」


 いいや、橘・・・。姉貴は面白いんじゃなくて、可笑おかしいんだよ。頭がな!


 いやいや、そんなツッコミを入れている場合ではない。俺には、やらなければならないことがあるのだ。


「えっと・・・。むむむ、睦美むつみちゃん? そろそろ・・・」


「ん? なに?」


 なに、じゃねぇだろ! とっと帰れよ! 失せろよ!


 姉貴はニヤニヤとしながら、俺の顔を見ている。どうやら、このままではらちが明きそうにないので、拉致することにしよう。ということで、俺は姉貴の腕を掴み、校門とは反対方向へと連れて行こうとした。


「え? ちょっ、渡辺くん!? こ、こんなところで襲わないで! 人が、人が見てるから! 抑えきれない欲求の解消なら、誰もいないところで、してあげるから!」


 黙れ、バカ! なにを言い出すんだ! あと、渡辺って呼ぶな!


「どど、どうしたの!? 渡辺くん!? 睦美むつみちゃんに、なにをする気なの!?」


「いや、えと・・・。わ、忘れ物! 忘れ物を取りに帰らないと!」


「・・・忘れ物? 誰の?」


 橘が不審そうな目で俺を見ている。


 やめろ、そんな目で見るな! 不審者を見るような視線を向けるな! 不審者は俺じゃなくて、この女なんだぞ! コイツはイイ歳こいて、高校生になりすましてるんだぞ!


「あ! そうだ、そうだ! 忘れ物があったんだ! ほらほら、渡辺くん、行くよ!」


 どういうワケか、姉貴が俺の腕を振りほどき、急に駆け出した。そのため俺は慌てて、そのあとを追った。








 暫くして、立ち止まった姉貴。そこで俺は疑問をぶつけた。


「急になんだよ? なにかあったのか?」


「・・・知ってる先生と、目が合った」


「それ、もうアウトだろ! なにしてんだよ!」


「うん。その先生も、『オマエ、なにしてんだよ』って顔をしてた」


「バレたのかよ! どうすんだ、バカ!」


「とりあえず、今日は家に帰る」


「・・・そうか。それは良かった」


「じゃあ、また明日ね!」


「明日も来るのかよ!?」


 そうして、その日はなんとか、やり過ごした。








 夕方、学校から帰ると、リビングで姉貴が死んでいた。まさに、リビングデッドだ。


 いやいや、そうじゃない。死んではいない。死にそうな顔で倒れているが、死んではいない。とりあえず、死にそうになっている理由を聞いてみる。


「どうしたんだよ?」


「・・・・・なの」


 なんとも、か細い声。そのため、語尾しか聞こえなかった。


「なんだって? 全然、聞こえねぇよ」


「・・・今日の帰り道、知り合いの後輩に、会った」


 ・・・え?


「お、おい。それって、まさか・・・」


「うん・・・、高校の後輩。・・・今、三年生」


 地獄っ!!


 その後輩───俺からすれば、先輩だが───からしたら、卒業した筈の先輩───つまりは姉貴がセーラー服を着ているんだから、目を疑ったことだろう。超常現象に出くわしたと思っただろう。なんとも気の毒なことだ。


「あー・・・。メチャクチャ引いてた」


 そりゃそうだろ!


「しかも、三人もいた」


 三重苦さんじゅうくっ!!


「多分もう・・・、学校中に知られてる」


 まぁ、知り合いの先生にも気付かれてたみたいだしな。


「どうしよう! 明日、どうやって登校しよう!」


「まだ来るつもりかよ!! いい加減にしろ!!」


「だってアタシ、まだモテてないから! 高校で、モテてないから!」


「・・・いや、もう無理だろ。バレたんだから」


「・・・え?」


「姉貴はもう、俺の高校では変人扱いされてるに違いない。だから、もう高校ではモテないだろ?」


「っ!? そ、そんな・・・」


 ふぅ、やっと決着したようだ。これでもう、姉貴が高校に来ることは───。


「他の高校の制服を用意しなきゃ!」


「マジでやめろ! 捕まるから!」


 その後、なんとか姉貴を説得して思い留まらせることには成功した。しかしその代償として、俺は男友達を紹介することになってしまった。トホホ・・・。



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三つ年上の姉貴が、もう一回高校に通うと言い出したのだが・・・。 @JULIA_JULIA

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