第3話
・・・これは参った、俺はやらかしてしまったようだ。さて、どういう風に弁解すればイイのだろうか。
俺が通う高校───つまりは姉貴が通っていた高校の制服は、男子は学ラン、女子はセーラー服となっている。学ランの方は全学年が共通の仕様となっているので見分けがつかないが、セーラー服はそうではない。リボンタイの色によって、学年が分かる仕様となっているのだ。
俺が入学した現在、セーラー服のリボンタイは、三年生は青、二年生は緑、一年生は赤、となっている。そしてそれらの色は、青、緑、赤、青、緑、赤・・・という風にループする仕組みになっている。つまり来年度の新入生は青のリボンタイを使用することになり、現在は一年生であることを示している赤のリボンタイは、来年度は二年生であることを表すことになるワケだ。
そしてそれは、去年の三年生は赤のリボンタイを使用していたことを意味している。よって三つ年上の姉貴は、
さて、問題はここからだ。俺はつい先程、姉貴のことを『幼馴染のお姉さん』と言って、橘に紹介した。それは姉貴が、高校一年生にしては大人びた顔立ちと雰囲気───それはそうだ。実際には大学一年生なのだから───を有していることにより、そういう設定にしたのだが、それは明らかに失策である。
リボンタイを見る限り、姉貴は俺と同学年ということになる。よって、『お姉さん』と言ってしまったことは、大きな失態である。現に、橘は姉貴のリボンタイを見て、不思議そうな顔をしている。さてさて、どういう言い逃れをしたものか。
今更、『実はこの人、留年してるんだ』とは言えない。そうなると、姉貴は三度の留年を経て、未だに一年生だということになってしまう。なぜなら、姉貴自身が新入生という設定を固めてしまっているからだ。そうなると、三度の留年という信じがたい設定をゴリ押しすることになるが、そんな設定を橘が信じるとは全く思えない。
更にいえば、『この人、三年生だぞ。一回留年してるんだ』とも、言えない。そんな発言を姉貴が受け入れるとは思えない。姉貴は新入生になりきっているし、なんとも厄介な姉貴が俺に合わしてくれるとは到底思えないのだ。
「・・・お、お姉さんっていうのは、その・・・。ほ、ほら、この人、大人っぽいだろ? それに、俺よりも誕生日が早いし・・・」
「ふーん・・・」
橘の声から生気が感じられない。しかも顔からは、疑念が溢れ出ている。
あぁ、俺のバカ! 余計に苦しい状況に陥ってるじゃないか!
しかしそんな状況を、姉貴が打開する。
「アタシね、渡辺くんの
「えっ!?
「そうそう。だから、えっとぉ~・・・、橘ちゃん、だっけ? 橘ちゃんはアタシのこと、同い年として接してくれてイイからね」
「あ、はい・・・。あ、いえ・・・、うん・・・」
戸惑いながらも笑みを浮かべた橘。その様子に、俺は安堵する。
おぉ、橘の顔から疑念が消え掛けている! やるな、姉貴!
・・・などと感心している場合ではない。そもそもが姉貴のせいで、こんな、ややこしい事態に陥っているのだから。
「あ、自己紹介しないとね。アタシは
「あ、えと、ワタシは
「そう、アタシも渡辺なんだ。
「あ、そっか! ・・・ん?」
またもや不思議そうな顔をした橘。その理由は明白だ。
「えっと、
「そうだよ~」
姉貴! それは
赤の他人なら、いざ知らず。
しかし姉貴は、
「『渡辺くん』って呼んだ方が、面白いから」
「へ、へぇ~・・・」
呆気に取られながらも、納得しかけている橘。そこで俺は、姉貴の後押しをする。
「む・・・、睦美ちゃん。その呼び方、そろそろ、やめた方がイイよ。ややこしいから」
「え? あれ? 今、なんて? もう一回、アタシのこと、呼んで!」
クッ! 調子に乗るなよ、クソ姉貴!
「そ、それより・・・。俺のことは、
「ん~、じゃあさ~・・・。もう一回、アタシのこと、呼んでみてよ」
ニタニタと笑い、
「む、むむ・・・、
口が上手く動かなかった。拒否反応だろう。あまりのおぞましさに俺の脳みそが悲鳴を上げているに違いない。
「アハッ! そんなに苦しそうな顔をして、どうしたの? 渡辺くん」
「だから
「えぇっ!? ど、どうしたの、渡辺くん!?」
「アハハッ! あ~、
俺の暴言により、大きく驚いた橘。そして、そんな状況をゲラゲラと笑い飛ばしている姉貴。もはや地獄絵図である。
あぁ。これが夢なら、どんなにイイことか・・・。
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