無色で無職の英雄目録~才能を持たない僕の、努力で成り上がる成長譚~

鬼怒藍落

第1章:無色で無職の少年

プロローグ:何も持たない学院生

「ねぇグリム! この世界には、綺麗なものがいっぱいあるんだよ!」

 

 子供の頃、それは宝物の様な日々だった。

 そんな宝物の様な日々の中でも、君との時間が何よりも大切で、一番輝いてた。

 とても長い髪と同じ色したきらめく青い瞳が真っ直ぐと僕を見つめている。彼女の満面の笑みが僕に向かって咲いている。


「それで続きはどうなるの!? メル!」

「ふふっグリム、えっとね!」


 彼女と読むのは英雄譚。

 未知や冒険を求める勇者が、捻くれた魔女と自分を慕ってくる精霊を連れて、この世界を旅する物語。

 

 その本に書かれた挿絵には、どこまでも広がる青いだろう『海』が、木というものが沢山生える『森』が、とても大きく土塊が積み上がった『山』がそして――見たことないけど幾つもの顔を持つ『空』が描かれている。


 君が語るそれらのもの。

 僕らが知らないそれらには沢山の希望が詰まってて、鈴の様な声音で語る君の表情も合わさって、とても幻想的に思えた。


「だからねグリム、いつか一緒に旅に出ようよ!」


 そして、ずっと秘めていただろうその想いを。

 とっておきと言うように、メルは最後の挿絵を指さした。

 そこには仲間達と一緒に、世界を照らすとされる『太陽』を背にする勇者の姿があって――。


「それでね、一緒に『朝』と『夜』を――何よりね、世界を見るの!」


 僕らが読んでる本の挿絵には色がない。

 単色のそれらに描かれているるものの色を知ることは出来ないけど……だから、僕は想像する。


 君が語った綺麗なもののを、沢山の希望が詰まった色んな景色を、君が僕に言ってくれたように、二人でいつか見るために。 

 きっと、それらは自分で冒険したものしか見られない……どんな宝にも代えがたいものだろう。


「うん、そうだね――メル」


 僕はその時に思ったんだ。

 ……この暗い部屋で灯りにてされる彼女には、それらでは敵わないなって。

 夢を僕に語る君の瞳の輝きは、僕の知る中で何よりも綺麗でとても眩しくて……僕はそれを守りたいと思ってしまったから。


「じゃあ、約束だ――僕達二人で、冒険をしよう。いっしょに世界を見に行こう」

 

 青い宝石が見開かれ、つぶらな瞳が僕を見る。

 その日一番……いや、初めてと言えるくらいに咲いた笑顔が零れて。


「うん、約束だよ――ずっと一緒!」


 それが、幼い頃の二人の約束。

 世界が綺麗なもので溢れていて、実らない夢はなく、全ては可能で、希望が沢山溢れてると、何も知らない愚かな子供達の思い出だった。


 あぁ、曇ることを知らなかった僕が思ったそれは、間違いだったのだろうか?



――――――

――――

――


 この世界に生きる者は、魔法の属性を示す『色』と自分の才能の資質を現す『ジョブ』を――そして、特別な者はそれらを支える精霊を宿して生まれてくる。

 それがこの世界の理。誰もが色を持ち職を持つ、数千年前からあるこの世界に敷かれた絶対のルールだ。


「……えっと、筆記試験の結果は」


 冒険者育成を謳う、国立アルステラ学園。

 そこに僕が入学して三年、今日は一学期末の筆記試験の結果が張り出される日。

 人混みの中になんとか入って、ようやくたどり着いた最前列で僕の名前をすぐ見つけることが出来た。


 そこには一位.グリム・アトルム、二位.アリア・アルブス……という風に張り出されていて、それを見た僕は小さくガッツポーズをした。

 

「っし、久しぶりの一位だ……」


 結果としては前から一番目。

 この学園に入学して三年、久しぶりの一位に心が躍りながらも……他の人が盛り上がっている実技試験の結果には目を向けれずにいた。


「今日もアリアさんが実技一位だ!」

「やっぱすげぇぇぇ! このままパーフェクトで卒業だろ!」

「流石はレアジョブであるパラディン聖騎士の持ち主だ!」

 

 実技試験の結果が張り出された人混みの中には、一位を取ったアリアという生徒がいて、皆に囲まれながらもそんな風に祝われていた。

 僕には一生縁が無さそうなその光景に何も思わないという事はないけど、わかりきっている最下位という結果にすぐその場から離れて、一人で僕は寮を目指す。


「今日も実技最下位だったようだな【無才者】!」

 

 誰にも見つかれないように戻ろうとしたのに、僕に声をかけてくる男子生徒がいた。声を張り上げる金髪赤目のその人でディア・ユピテルという同じクラスの男子。

 

「まぁそれそうか、色も職も持たないお前が実技に参加できる訳がないもんな!」

「……君には関係ないだろ」

「いいや、あるね! 君が誰もやらないクエストなんかで単位を稼ぐせいで、学園の品位下がる! そしたらせっかく通っている俺達の評価まで下がるだろう!」


 ……それこそ大声で、廊下を歩いている人達に聞こえるくらいに声量でそう僕を蔑むディア。彼の取り巻きの馬鹿にしたような視線に晒されながらも、何も言い返せず、ただ彼等の気が済むまで耐えることに決める。


「――邪魔だ」

「おっと、姫騎士様のお出ましだ! どうしたんだい? 君みたいな才ある者が、この【無才者】を庇おうというのかい?」

「庇う? 何を言っている? 私のライバルに虫が寄りついていたから払いに来ただけだぞ?」


 現れたのは、先程校庭で囲まれていたアリア本人。

 強気な態度でそう言った彼女は僕の手を取ってこの場から離れようとする。


「言うなぁ。だけど、これがライバル? どうやら姫騎士様は乱心している様だ!」

「貴様こそ勝手に言ってろ。とにかくだいくぞグリム」

「【無才者】を気にするなんてよっぽど変わった趣味なんだな姫騎士様は」


 そんな言葉を言い放った彼等から離れる僕ら。

 何もいい返せなかったなと思いながらも、そのまま僕とアリアは廊下を歩く。

 

「グリム、あんな奴らの言葉を気にする必要はないぞ?」

「……別にいいよ、僕に才能ないのは事実だし。それよりアリアこそ大丈夫? 後で何か言われない?」

 

 あの人達のことだから、何かしてきそうだし……後が心配だ。

 それこそアリアの隙を突いて何かしてきそうでもある。


「ふん――言ってきても叩き潰すだけだ」

「アリアらしいね……でも気をつけてね」

「変わらんな、私を心配するのなんてお前ぐらいだ」

「いや、相手の心配。だって君やりすぎるでしょ?」

「…………お前じゃなかったら許してないからな」


 ジト目でそう言われたけど、前に一緒にクエストに行った時の暴れた彼女の様を覚えている僕からすると、割と本気で相手が心配だった。


「……そうだお前はまだ目指しているのか?」

「そりゃあね、メアはもう先に行ってるし――僕も冒険者にならないと」


 聞かれてるのはそんなこと。

 それに対して僕は決意するようにそう言った。

 あの日約束した幼馴染はもう冒険者になっていて、今頃この国で活躍している。先に行かれたことは悔しいけど、いつか追いつくために――。


「そうか、なら一緒に卒業しよう。私のあいつに負けっぱなしは悔しいからな」

「単位足りたらね……」


 僕は訳あって実技試験が受けられない。

 だからいつも単位がギリギリなので、彼女が言ったそれにすぐうんと答える事が出来きなかった。


 それが、学園に通う僕の一幕。

 いつも通りで変わらない……日常の一シーンだった。

 

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