第2話

光が収まり、ゆっくりと目を開けると、そこには青々とした空と草原が広がっていた。風が心地よく肌を撫で、遠くに山と森が見える。これは間違いなく、自分の知っている世界ではない。


「ここが……異世界……」


私はその美しい風景に一瞬目を奪われた。夢のような光景だ。こんな場所で新しい生活を始められるのかと思うと、期待と不安が胸に広がる。

けれど、現実はそんなに甘くない。私の手には相変わらず、あの巨大なドリルが握られていた。


「本当にドリルだけ……」


思わず呟きながら、私は自分の状況を確認する。衣服は普段着のままだが、なぜか異世界風のデザインに変わっている。まるでこの世界に馴染むように調整されているかのようだ。だが、それよりも気になるのは、やはりこのドリルだ。


「これでどうやって冒険しろっていうんだ……」


私はため息をつきながら、近くの丘の上に目を向けた。そこには小さな家が建っていた。煙突からは薄い煙が上がり、誰かが住んでいる痕跡も見えた。


「まずは、あそこに行ってみよう……」


何も分からない状況の中、助けを求めるべきはまず現地の人だろう。私はドリルを肩に担ぎながら、その家に向かって歩き出した。

家に近づくと、木でできた小さな農家のようだった。周囲には畑が広がり、野菜が整然と育てられている。村というよりは個人の農園に見えるが、人が住んでいる気配があるのは確かだ。

私は玄関のドアをノックしようと手を伸ばした。すると――


「助けてください!」


突如、扉が勢いよく開き、中から飛び出してきたのは小さな男の子だった。彼はパニック状態で、涙を浮かべながら私にしがみついてきた。


「モンスターが……モンスターが村を襲っているんです!」


彼の言葉に驚き、私はドリルを持ったままその場に立ち尽くす。異世界ではモンスターが存在するというのは、話には聞いていたが、まさかこんなにも早く遭遇するとは思わなかった。


「モンスター……? それで、村はどこに……」


「この先です! 急いでください、村の人たちが……!」


必死な様子の男の子に促され、私はすぐに行動を決めた。自分に何ができるか分からないが、ドリルを持っている以上、少しでも力になれるかもしれない。


「分かった。私がなんとかする!」


気持ちは半分不安だが、今は立ち止まっている場合ではない。私は男の子を連れて、彼の指差す村へと向かった。


村に到着すると、そこはまさに混乱の真っ只中だった。村人たちはモンスターから逃げ惑い、あちこちで悲鳴が上がっている。家々は壊され、畑は荒らされていた。


「これは……ひどい……」


私は戦場のような光景に言葉を失った。モンスターたちは複数の狼のような形をしており、その巨大な牙で村を襲っている。逃げ遅れた村人たちは必死に抵抗しているが、彼らでは到底太刀打ちできないだろう。


「どうすれば……」


ドリルを握りしめながら、私は焦燥感を抱いた。自分一人でこの状況をどうにかできるのだろうか? 異世界に転生して早々、こんな試練に直面するとは思ってもみなかった。

だが、今は迷っている時間はない。目の前に、一匹のモンスターが牙を剥き出しにしてこちらに向かってきている。


「やるしかない……!」


私は咄嗟にドリルを構え、モンスターに向かって突進した。目の前の巨大な狼型の怪物は、鋭い牙を剥き出しにして、まるでこちらを獲物と見定めているかのようだ。


「これが、異世界のモンスター……」


想像以上の恐怖が体を貫く。しかし、今の私は逃げるわけにはいかない。背後には、怯える村人たちがいる。そして、手に握っているのは――神から授けられた唯一の武器、ドリル。


「これで……本当に戦えるのか?」


私は、改めてドリルをじっくりと見つめる。その鋭い刃先が光を反射してキラキラと輝いている。まるで神が言った通り、このドリルこそが私の武器であるかのように。


「やるしかない……!」


自分に言い聞かせ、私はドリルを構えた。そして、迫りくるモンスターに向かって力を込めて振り下ろす。


〔ドリルパンチ!!〕


ドリルがモンスターに命中した瞬間、凄まじい音と共にその巨体が吹き飛んだ。まるで紙のように軽々と飛ばされ、空中で回転しながら地面に叩きつけられる。


「な、なんだこれ……!?」


私は驚きのあまり声を出した。予想以上の破壊力に、自分自身が信じられなかった。ドリルがあまりに強力すぎて、まるでチートスキルのようにモンスターを倒してしまったのだ。


「このドリル……本当に、使えるんだ……!」


思わず笑みがこぼれる。神が言っていたことは本当だった。このドリルは、ただの工具ではない。私にとっての最強の武器なのだ。


「よし、次だ!」


私はさらに気合を入れ、残りのモンスターたちに向かって駆け出した。ドリルを振り回し、次々と襲い来る敵を薙ぎ払っていく。


〔ドリルキック!!〕


まるで手足の延長のようにドリルを自在に操り、モンスターを一匹また一匹と倒していく。その圧倒的な力に、次第にモンスターたちも恐れを抱いたのか、私に近づくことさえ躊躇するようになった。


「……私、こんなに強かったのか?」


自分でも信じられないほどの力を発揮していることに驚きつつも、私は周囲の状況を確認する。村の家々はまだ無事なものも多く、村人たちもなんとか安全な場所に避難しているようだ。


「これで一安心……か?」


私は一息つきながら、最後に残ったモンスターを見据える。その中でもひときわ大きな個体が、こちらに向かってゆっくりと歩み寄ってきていた。体長は普通の狼の倍以上、鋭い爪と牙がまるで武器のようだ。


「こいつが……ボスか」


私はドリルを構え直し、集中力を高める。ここで倒しきれば、村は完全に救われる。だが、その前に、その巨大なモンスターが私に向かって一言、低い唸り声をあげた。


「グルル……人間よ、貴様、何者だ……」

「え?」


まさかモンスターが言葉を話すとは思っていなかった。私は一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻す。


「私の名はテト。……この世界に転生して、神からドリルを授かった者だ」


モンスターはじっと私を見つめたあと、不敵な笑みを浮かべたように見えた。


「ほう……ドリルか……。しかし、そんなものでこの俺様を倒せると思っているのか?」

「試してみるか?」


私は挑発的に言い返すと、ドリルを再び構えた。モンスターがにやりと笑うと、次の瞬間、地面を激しく踏みしめながら私に向かって突進してきた。


「こいつ……早い!」


あまりに速い動きに反応が遅れた私は、ぎりぎりのところでドリルを振り上げ、迎撃態勢を整える。しかし、その一撃をかいくぐってモンスターは私に肉薄してきた。


「これで終わりだ、人間!」


その瞬間、モンスターの巨大な爪が私に襲いかかる。私は反射的に身をひるがえし、ギリギリでその攻撃を回避した。


「くっ……!」


モンスターの猛攻に、私は思わず距離を取った。だが、すぐに気を取り直し、再びドリルを振りかざして反撃に転じる。


「これで……決める!」


私はドリルに全力を込め、力強く突き出した。


〔ドリルチョップ!!!〕


轟音と共に、ドリルがモンスターの体に命中した。その瞬間、爆発的なエネルギーが周囲に放たれ、モンスターの巨体が一瞬で粉々に砕け散った。


「……やった……!」


私は勝利を確信し、深く息を吐いた。巨大なモンスターは完全に消滅し、村に平和が戻ったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年11月28日 08:01
2024年11月29日 07:34
2024年11月30日 08:01

ドリル無双。 十八万十 @pikomyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画