第7話

 まぶたを優しい朝日が照らし、もう空気を吸うことができると気が付く。


 私は池のほとりに横たわっていた。少しずつ、世界に焦点が合ってくる。ここは深大寺の弁天池である。深大寺の湧水は冬の空気よりずいぶんあたたかく、あたりには川霧が立ち込めている。


 優しい朝の光に照らされた霞の向こう、池の真ん中には島があって、そこで誰かが待っている。白蛇の姿をしたフクさんは、彼女の元へ向かう。


 行かないで、と思った言葉は出てこない。


 私は霊亀レイキ。彼を望む場所へ導く役割を担ったのだ。


 ありがとう、と最期に彼が言ったから、この初恋は終わって、私は少しだけ大人になった気がした。

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竜宮の遣い 美崎あらた @misaki_arata

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