第5話
「えー!ほんと!よかったじゃん!」
「ありがとう。そういう理子は?彼氏とは良好?」
「うん、もうばっちりよ」
「そっか。そういえば理子の彼氏ってどんな人なの?」
ふと気になった。年上とだけ聞いているけど、それ以外は全く知らない。一体どんな人なんだろう。
「話すほどの人じゃないよ、普通のサラリーマン。それじゃ、私お風呂行くから」
私の期待に反して
「よかったらなんだけどさ、今度うちにこない?父さんと母さんが
どうしようか迷ったけど、せっかくならと行かせてもらうことにする。
「君が
家に着くと、40代前半くらいの男性が出迎えた。大学生の親にしては、いささか若い気がする。
「お邪魔します。これ、つまらないものですけど……」
「ええ?そんないいのに。なんか申し訳ないね。ありがとう」
挨拶して手土産を差し出すと、
リビングに通されて、ソファに座るよう言われる。部屋は綺麗に整っていて、白色に統一された家具が清潔感を増す。
「ただいま。遅くなってごめんなさいね」
しばらく3人で世間話なんかをしていると、玄関の方からドアの開く音がして、女性の声がした。
「お邪魔してます。
「こんにちは。あなたが……って、え?」
まもなく姿を見せた女性に挨拶すると、彼女はそう途中で口を止めた。
「二人とも、少し出かけてきて」
何かまずいことでもしてしまったかと焦りだした頃になってやっと、彼女は口を開いた。
「違う。あなたは残って。お父さんと
言葉に従って出ようとすると引き止められて、さっきのが私ではなく二人に向けられたものと知る。
「え?なんで……」
「いいから出て行って!」
「私のこと、わかる?」
二人が出て行ったあと、彼女は私をダイニングテーブルに座らせると、開口一番言った。
「
わからず黙っていると、彼女は続けた。そうしてやっと、彼女が高校時代の友人であることに気付く。
「もしかして
「五年」
再会を喜ぼうとした私とは反対に、
「……?」
「
わけがわからなくて首を
「
血の気が引く感じがした。心がきゅっと重たくなる。
「ふざけないでよ!私は高校生の時からずっと
「そんな、
「結婚した後もそう!生まれた子にあなたの名前を付けたいって言われた時の私の気持ちが、あなたにわかる!?」
言い訳をしようとして遮られた言葉が衝撃的で、頭が真っ白になる。
「その上私を置いてさっさと死んじゃうし、もう私の人生なんなのよ!」
さらにそう続けて泣き出す
情報が頭をぐるぐるして、なにひとつ理解することができない。
「
そんな時、後ろから声がした。振り向くとそこには
どうして、気付かなかったのだろう。彼の顔付き、言動、雰囲気、性格。今にして思えば、すべてが誠そっくりだった。知らず知らずのうちに、叶木くんに纏う誠の影を追いかけてしまっていたみたいだ。
瞬間、私は何かとんでもなく許されないことをしている気がしてきて、怖くなって家を飛び出した。
「待って、
「ついてこないで!!」
引き止めてくれた
走り疲れて気が付くと、川にかかる橋の上に居た。水面からは高さがあって、柵から頭を出してみると本能的な恐怖が身体を包む。
そんな時、スマホが振動した。鞄から取り出してみると、
反射的に受話器を取りそうになって、さっき見た
高校時代から歳をとって、少し痩せたようだった。目の光も少なくなっていたと思う。私が死んでいた30年の間に、色々なことを経験したみたいだ。
私は
許されることじゃない。この電話は、取るべきじゃない。
そう思って、未だ鳴り続けるそれを川に投げ捨てた。
スマホは数秒をかけて水面に落ちると、ポチャンと音を立てて沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます