第2話

2024年現在。日本では少子高齢化が深刻な問題となっている。政府は何年も前から手を打つも結果は振るわず、一向に歯止めがかからない。


そんな中、時の首相はある政策を打ち出した。


『四次元の少子化対策』と呼ばれるそれは、とある国立大学によって2023年に開発され、2014年から自衛隊が運用しているというを使ったものだった。

より具体的に言うと、過去に病気や事故で死亡した0~22歳の人間を死ぬ直前に現代へと連れてきて治療し、現代人として生活させるというものだ。


私はその制度によって、今も生きている。


「ねぇ、ねぇってミドちゃん!聞いてる?」


大学の新歓でぼうっとする私を引き戻すように、友達が肩を揺らす。


相ノ谷あいのたに 理子りこ。彼女も同じ制度で現代へと来ている、寮のルームメイトだ。

二人とも政府の支援によって入学予定だった大学に入れてもらっている。

楽しい雰囲気に影響されてか、今日はずいぶんとテンションが高い。


「こんにちは。一年生の方ですか?」


そんなことを思ったとき、私の正面に男の人が座った。軽くパーマのかかった髪をひたいの中心でわけて、淡い茶色の服を着ている、現代ではよく見るタイプの醤油顔しょうゆがおの人だった。


「はい!昭和48年生まれの18歳!相ノ谷あいのたに理子りこです!」

明らかに私が聞かれていたけど、理子が先に割り込んで答えた。

「もしかして少子化対策のかたですか?」

「はい!近くの寮にミドちゃんと住んでます!」

「ミド……さん?」

再び彼が私を向く。

海土路みどろ 香苗かなえと申します。生まれ年は……昭和50年です」

香苗かなえさんっていうんですか!僕もかなえって言うんです!叶木かのうぎかなえと申します!同じ一年生同士仲良くしましょう!」

すると、彼は興奮した様子でいった。



「おなじ名前だなんてすごいね。運命なんじゃないの?学年も同じだし、そのうち付き合っちゃったりして」

寮に戻ると、ベッドに寝そべった理子りこがにやにやとして私を見る。

「ばかなこと言わないでよ。まだ会ったばかりなのに」

「え~?結構かっこいいしアリだと思うんだけどなぁ」


ここに来て2ヶ月が経つ。現代に適応するために政府から受けたセミナーや理子たちとの共同生活を通して、両親の死にはある程度折り合いをつけることができた。

でも、まこととのことは違う。私はまだ彼のことが好きだ。会いたい。会って、前と同じようななんでもない日常を送りたい。恋愛の続きをしたい。そう願っている。


「じゃあ、理子が狙えばいいじゃん」

私はそんなことを考えて、投げ捨てるように言い放ってとこに着いた。


まことは今、どこでなにをしているんだろう。その隣にはやっぱり、私じゃない誰かがいるんだろうか。

毎晩、そんなことを考える。


翌朝。私は一回目の講義を受けるため大学へと向かった。理子とはなるべく講義を合わせるようにしているけど、学科が違うため限界があって、今日は一人で受ける。


内容はなんてことないガイダンスだった。けど、それだけでも私には難しい。

GPSと出席確認がどうだとか、スマートフォンがどうだとか。おまけに毎回の課題はパソコンで提出しなければいけないらしい。


前に寮で受けた現代教育セミナーで、用語や道具に聞き覚え、見覚えはあるものの、使いこなすなんてとてもできない。


「せっかくなので、一回目の出席を取ってみましょう。皆さんアプリをダウンロードしてください」

そんな時、初老の担当教員が言った。受講者が一斉にスマホを取りだして何やら操作する。

私も一応手には取るけど、わからない。アプリ?ダウンロード?

どうしよう。このまま出席点を失って単位を落として、卒業できなくなってしまうのか。不安に押しつぶされそうになる。


「大丈夫?香苗かなえさん……だよね?」

横から声がした。見ると、さっきまで空席だった隣には昨日の男の人の姿があった。確か、叶木かのうぎくんといったか。


「ちょっと貸して」

すると彼はそう言って、右手を差し出した。

戸惑いつつもスマートフォンを渡すと彼は素早く操作をして、まもなく

「出席する」と書かれたボタンのある画面を向けてきた。


「はい、これで大丈夫」

「あ、ありがとうございます」

「急に現代で生きろなんて言われても、難しいよね」

叶木くんが笑いかける。

「……うん。私、機械にうとくて」

「もしよかったら、なんだけどさ。この授業一緒に受けない?提出とかのシステム的なことは僕が手伝うし、逆に授業内容のことは一緒に考えてもらえると嬉しいんだけど……」


ありがたい話だったので、応じることにした。そんな流れで、叶木かのうぎくんとはいくつか同じ授業を受けることになった。

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