セフレが誕生日プレゼントをねだってきたので

惣山沙樹

セフレが誕生日プレゼントをねだってきたので

 クリスマスが近付く十一月下旬。俺は駅前で待ち合わせをしていた。スマホでショート動画を観ながら暇を潰していたら、トン、と後ろから肩を叩かれた。


じゅん、早かったんですね。遅れて申し訳ないです」

「いや、十分前だよ千晴ちはる。俺が早く来すぎただけ」


 サラサラの茶髪に彫刻のように整った顔立ちにメガネ。嫌味なくらいカッコいい男。それが千晴。こいつとの関係は少々特殊だ。

 俺が大学で狙っていたかえでという女の子とセックスできて、彼女の部屋で余韻を楽しんでいた時、やってきたのがこの千晴。千晴も楓とセフレだったことがわかって、わけのわからないうちに三人で宅飲みして、なぜか仲良くなってしまった。

 千晴が言った。


「とりあえず作戦会議しましょうか。ドトールでも行きます? 席でタバコ吸えますし」

「ああ、そうしよう」


 千晴との「作戦会議」とは、楓の誕生日プレゼントのことだ。いつものように三人で宅飲みをしていたら、楓がもうすぐ誕生日なのだと言い出し、俺たち二人にプレゼントをねだってきた。それで、とにかくショッピングモールのある駅に俺と千晴は集まったのだ。

 ドトールに入り、千晴に席を取っておいてもらい、俺は二人分のホットコーヒーを買って持って行った。千晴と向かい合わせに座る。時刻は朝十時。ショッピングモールが開く時間だ。コーヒーを一口すすり、タバコに火をつけた。千晴もほぼ同じタイミングで紫煙を吐き出した。俺は千晴に尋ねた。


「なあ、楓の好きな物って何か知ってるか?」

「えっと……酒、タバコ、男」

「改めて考えるとろくでもねぇ女だな」

「あと揚げ物」

「食い物以外で思いつかないか」

「騎乗位」

「午前中のドトールでそういう単語を出すな」


 千晴と一緒にどうにかこうにかしようと思っていた俺がバカだったかもしれない。千晴は勉強はできるらしいがけっこう天然だ。


「っていうか千晴、他の女の子にも手ぇ出してたじゃねぇか。今まで何あげた?」

「ああ、定番は香水ですね。僕好みの香りになってほしいとか何とか言っておけば機嫌取れるので」

「楓は……そういうの好きそうじゃないよな」

「楓は酒とタバコくさいのが似合いますよね」


 楓は同年代の大学生女子と比べてまとう雰囲気がまるで違う。だからこそ俺も惹かれたわけだが。今度は千晴に質問された。


「純こそ前の彼女とかに何かあげたことないんですか?」

「ネックレスあげたなぁ。でもさ、楓にはアクセサリーとかあげたくないんだよな。付き合ってるわけじゃないし」

「……僕たちって何なんですかね?」

「まあ友達だろ。セフレってフレンドの意味入ってるだろ」

「じゃあそれなりの距離感の物にしないとですねぇ」


 タバコはじりじりと短くなり、マグカップの中身も少なくなっていく。俺と千晴は、それぞれスマホを取り出し、「大学生 女性 プレゼント」などの単語で検索をかけた。


「あー! もうわかんねぇよ。どれもこれも楓っぽくない!」

「楓はブランド物にも興味ないですし、可愛い系というよりカッコいい系ですから……」


 楓は小柄で黒髪をショートカットにした女の子だ。今でこそ気安く軽口を叩いているが、初めて話しかけるまでは、そのクールな佇まいに無口だとばかり考えていたのである。

 コーヒーは尽き、タバコは三本目に突入。それでもいいアイデアが浮かばない。


「千晴、とりあえず店ブラブラするか? それで見つけたやつにしよう」

「そうですね。行きましょうか」


 席を立ち、ドトールを出てショッピングモールに入った。どこもかしこもクリスマスムード。それっぽいチャカチャカした陽気な音楽が流れ、誰もかれも浮ついているように思える。

 試しに雑貨屋に入った。季節柄、クリスマス用品が多い。スノードームを見ていたら、千晴が叫んだ。


「純! スノードームといえば!」

「あっ、楓ってそういうの好き?」

「中に覚せい剤を入れて密輸した事件があったんですよ!」

「……お前の雑学はどうでもいいよ。楓っぽい物探してくれ」


 目ぼしい物はなく、次々と店をあたっていく。服は好みが激しそうだからパス。ぬいぐるみなんていうキャラではない。お菓子あたりで手を打とうかと考えていた時、家電のフロアに着いた。


「純、実用的な物はどうでしょうか。そういう物の方が喜んでくれそうです」

「そういや楓、いつもスマホのバッテリーギリギリなんだよな。モバイルバッテリーは?」

「それいいですね!」


 俺たちは、その店にあった一番大容量のモバイルバッテリーを購入した。




 そして、誕生日当日。先に千晴と待ち合わせ、コンビニで酒とつまみを大量に買って楓の部屋に行った。


「純! 千晴! 来てくれてありがとー!」


 ジャージ姿のゆるゆるな楓が出迎えてくれた。寝起きなのだろうか。髪の毛もボサボサだがそれでも楓は可愛い。ローテーブルに買ってきたものを並べ、フローリングの上に直接座って乾杯。


「誕生日おめでとー!」


 わざわざ酒をコップに移し替えることなんてしない。三人で缶をぶつけた。早い方がいいだろう、と俺はリュックから紙袋を取り出した。


「なあ楓。これ、千晴と選んだプレゼント」

「あっ、本当に買ってきてくれたんだ? あの時酔ってたし冗談半分だったんだけど」

「はぁ? けっこう選ぶの苦労したんだぞ……」

「なんだろ、なんだろ」


 楓はぺりぺりと包装紙をはがしていった。


「おっ! モバイルバッテリーじゃん! 助かるぅ!」


 千晴が言った。


「楓は実用的な方がいいかと思いましてね、僕の案です」

「ちょっと待て、俺だ俺、言ったの俺」

「……そうでしたっけ?」

「まあどっちでもいいよ! 二人ともありがとうね!」


 それから、大学で会うと楓はそのモバイルバッテリーを常にスマホに繋いでいるのだが、スマホ本体を買い換えるための金をちょっと出してやった方が良かったのではと思わなくもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

セフレが誕生日プレゼントをねだってきたので 惣山沙樹 @saki-souyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画