畜生、畜生

白川津 中々

◾️

あの豚が結婚。


デブで間抜けで、取り柄もなにもない冴えないあの豚が働いてる工場の事務員とくっつきやがった。顔のいい女だ。あんなゴミには、似合わねぇくらいに……


「許せねぇなぁ」


そうだ、許せない。あの豚が幸せになるなんて許せるわけがねぇ。


「ぶっ壊してやる」


今すぐあいつの家に行ってやる。全部ぶち壊しにしてやる。舐めやがって、笑ってんじゃねぇ、幸せになんてなってんじゃねぇ、泣いてる面がお似合いなんだよあいつには。またズタボロにしてやる。昔と同じ目に遭わせてやる。許さねぇ、許さねぇ。


「ちょっと、どこ行くの」


「うるせぇ」


「ねぇ、仕事探してよ。私もお父さんも、もうお金が」


「黙れって、ババア」


「いちいちうるさいんだよ」


「おい、痛いかよ。息子にぶん殴られて惨めだな」


「テメェが悪いんだよ。うるせぇからよ。クビになったくらいでいちいちいちいち」


「なぁ、聞いてんのか、おい。くたばったかよ。ざまぁねぇな」


うるせぇ。

うるせぇ。

どいつもこいつも鬱陶しい。とりあえずあのデブを仕留めてやる。畜生、許せねぇ、許せねぇ。


車、エンジン、アクセル。アクセル、アクセル!

このままあいつの家に突っ込んでやる。全部、全部、全部!



……あ。




……




「おい、大丈夫か!」


「生きてるか、おい!」



痛てぇ……痛てぇ……事故ったのかよ……畜生、畜生、なんで俺がこうなるんだ。なんであの豚が幸せになってんだよ。畜生、畜生……



「おい、おい!」


「早く救急車を……脈が止まってる……!」




畜生、畜生……

なんで俺の人生、幸せじゃなかったんだ……

畜生、畜生……

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