俺、異世界で最強になる〜魔術特化で冒険してたら勝手にハーレムが出来上がっていた〜
微風
第1話 魔術師 Ⅰ
……徐々に意識が覚醒していき、目が覚める。
俺は草の上で仰向けに寝ていた。
「ぐっ……ここは……」
目の前には突き抜けるような青空が広がり、一直線に差し込む太陽に目が眩んだ。小鳥の囀りや植物の葉っぱが風で揺れ動く音が聞こえ、花の香りが鼻腔をくすぐっている。視覚、聴覚、嗅覚、共に正常だ。
地面に手を付いて上半身を起こす。
「痛っっ……」
掌で地面に転がる石ころを押し付けてしまい、若干の痛みが走っていることから、触覚にも問題はない。
ハッと事故った記憶を思い返して、俺は自分の体を確認した。
「傷がない……」
高校からの下校中、確かに後ろから大型トラックに追突されて意識を失ったはずだ。にも関わらず、大怪我を負っていてもおかしくないのに傷がどこにも見当たらないし、下校時に着ていた学生服にも汚れた箇所は一切見受けられない。それに病院のベッドの上で寝ているならまだしも、わけの分からない森の中で寝ているのだから、意味不明である。
「あ、誰かに連絡を……」
制服に付いている全てのポケットを確認するが、スマホは無い。何セットか持ち歩いていたポケットティッシュすらも全て消え失せている。おまけにスクールバックも消失して完全に手ぶらの状態だ。
俺は恐怖を感じてこの場から移動するために立ち上がったのだが、思いのほか体は何の不自由もなく動かすことができ、事故った後とは思えないほど軽快に動作した。
歩きながら周りを確認すると、辺り一面樹木が生い茂り、木の隙間から太陽の明かりが何本か差し込んではいるものの、上空を枝が覆っている箇所は暗い、不気味である。
ここに留まるのはマズいと直感的に感じた。
「さっさとこの森を脱出した方が無難だな」
植物や木々をかき分けながら道無き道をひたすらに突き進む。自分の身長くらいのラフレシアっぽい花がそこかしこに生えていて、近付くと食べられそうだ。更に大きな虫、いや、どう考えても異常なサイズ感の虫が近くにワラワラと這っているのだが……気味が悪いったらありゃしない。
俺は様々な障害物を逃げるように避けつつ、光が差し込む入り口らしき場所へと突き進む。
なんとか森から脱出すると、人や乗り物が通るための舗装された道があった。
長く伸びる道の先に目をやると、何やら村と思われる集落が視界に飛び込んできた。随分と古い様式の住宅が並んでいるように思えるが、本当にここって日本なのか?
疑問は尽きないが、とにかく村に行ってみて情報収集した方がいいだろう。
村に近付くと、遠目で見た時よりも意外と大きな敷地面積の集落で、結構な数の人が生活を営んでいるようだ。
だけど、人々の見た目に若干の違和感がある。
西洋人風の顔立ちで色白だが、ホリはそこまで深くなくてアジア人にも見えるし、なんなら日本人っぽい。服装は現代の私服とはかけ離れていて、漫画とかアニメに出てくるゴツい鎧とかローブみたいな上着を装着し、男女問わず耳にイヤリングを付けている。全員ではないが、八割くらいは同じような格好をしている。
俺の服装は高校の制服だ。どう考えても明らかに浮いているので、村に入った瞬間からこちらを物珍しそうにジロジロと見てくる人が散見された。
そんな中、老人二人組がこちらを見ながら世間話をしているのが聞こえてきた。
『あの者……見慣れない顔じゃな。城郭都市からきた
『そうは見えんが……いずれにしても、魔術士をもっと寄越してくれんと、ワシらの村もキツイじゃろ』
『魔神の眷属共の動きが活発になっておる。魔獣も増え続ける一方じゃからな』
会話からして日本人の俺でも言葉自体は理解できているが、魔術師とかソーサリーとかゲームに出てきそうな単語が出てきたな。もちろん俺はただの日本人の学生で魔術師とやらではないし、城郭都市から来た訳でもない……ここはヨーロッパかよ!
それに、明らかに物騒なラスボス的な魔神、そして魔獣。いつぞやかプレイしたファンタジーRPGにでも迷い込んでしまったみたいだ。
はぁ、そんな小説染みた転移などあり得ないだろ。過度なストレスが溜まってリアル感MAXな夢でも見ているのかもしれない……病院のベッドの上でな。
「だけど……腹はしっかり減っている。あまりにもリアル過ぎて現実としか思えない!」
トボトボと空腹感と疎外感を感じながら歩いていると、酒場と思われる看板が目に止まったので、空腹を満たすため、未成年だが入ってみた。
建物内は木の造りの大きめな間取りで、一階席と二階席がある。二階部分は下から見えるタイプの様式で、上からも下からも馬鹿騒ぎが聞こえてきた。
席に座っている客を注意深く観察してみると、大きな剣を持っていたり、ダガーを忍ばせていたりと物騒である。銃刀法違反で捕まりそうだが、警察とか取り締まる人間がいる気配はないのだ。
彼らとできる限り接触しないように、人の少ないカウンター席に腰をかけていると、店員らしき髭もじゃでガタイの良いオッサンが声をかけてきた。
『いらっしゃい、ご注文はどうする、あんちゃん』
「おすすめ商品ありますか?」
『おうよ、ウチのおすすめは、
などと、大絶賛しているのだが……ドラゴン?
ああ、分かってはいた。ひたすら現実逃避していたけど、ここまで状況証拠が揃っていたら、もう間違いないよな。
ここは異世界だ。
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