500字ホラー

九戸政景

最期まで

「隼ちゃん、ぎゅーっ!」



 黒いポニーテールの少女が黒髪の少年に抱きつく。鳥海隼は恥ずかしそうにしながらもどこか嬉しそうであり、周囲の大人達も微笑ましそうだった。



「今日も翔子ちゃんはウチの子の事が好きなのね」

「うん! 結婚もしたいし、一緒のお墓にも入るの!」

「ふふ、もうそんな事まで考えてるの? 隼君はどう? ウチの子と最期まで一緒にいるの」

「それは……まあ、悪くはないけど」

「ほんと!? やったぁ!」



 博多翔子がより隼に抱きつき、隼が恥ずかしがる中で母親達はそれをクスクス笑いながら見ていた。それから時が過ぎ、成長した隼は墓の前に立っていた。墓には翔子の名前が刻まれており、隼はそれを哀しそうに見ていた。



「ようやく来られたよ。お前が事故で死んだでこうして墓参りをするまで少し時間が経っちゃったけどな。まあ妻と子供がいるからそんなに長居はしないけどさ」



 隼が持参した花を備えようとしたその時、墓の下から伸びてきた青白い手が隼の手を掴み、そのまま引きずり込もうとし始めた。



「えっ……」

『ずっといっしょだよ、しゅんちゃん』

「しょう、こ……」



 隼はそのまま地面の中へと引きずり込まれ、静まり返った墓場には花だけが残っていた。

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500字ホラー 九戸政景 @2012712

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