第3話

「コリスくんを悪く言うのはやめて」

 ユイが、オレの背後から声を飛ばす。


 スレアの怒りに満ちた瞳は、オレからユイへと向けられた。

「コリスは否定しなかったでしょう。やめてと言うだけで。私、嘘は言っていないわ」

「コリスくんのせいじゃない」

 ユイが、弁護してくれる。


「兄を奪われたのに、かばうつもり? 葬式にときのユイ、私見ていたわよ。あんなにわんわん泣いていた。ウィルを死なせた人間が憎くないの?」

 ユイが、前に出た。オレの隣に立つ。


「煽るのはやめて。そんなことを言うなら……」

「やめろ、それ以上は」

 オレはユイの言葉を遮ろうとするが、

「どうして私の家を焼いて、お母さんを傷つけたの?」

 ユイは言ってしまった。

 

 スレアを相手に、敵同士だと言ってしまったようなものだ。


 そして今の状況では、オレたちを守ってくれる人はいない。

 自分たちだけで、ユイの家を襲ったスレアから身を守らないといけない。

「最初に言ったでしょう。用事があるのはユイよ。他の人たちはどうでもいい。コリスだって神隠しの魔法にかけるつもりもなかった」


 スレアは、ユイの家を襲ったことを否定しなかった。

 昨日の夜、街の人たちがユイの家を囲っていたのに、ユイやソフィアを襲った者は捕まらなかった。

 その理由がはっきりした。

 スレアは、神隠しの魔法を使って逃れたのだ。


「ユイ、一緒に来て」

 スレアが、ユイに手を伸ばしてくる。

「ユイを連れて、何をするつもりだ」

 オレは問いかける。

 ウィルを見殺しにしたからといって、スレアを放っておくわけにはいかない。


「ウィルを取り戻すためよ」


 スレアが、わけのわからないことを言った。

 災厄の火で死んだウィルを、生き返らせるつもりなのか? 本気で?


「お兄さんを……?」

「そう、あなたもそれを望んでいるでしょう。自分が生き続けるよりも」

 まるで、厄災の火を生き延びたユイよりも、ウィルの命のほうが大事だとでも言わんばかりだ。


 命を天秤にかけているような言い方に、嫌悪感が募る。

 スレアは、ウィルの死の直後にユイに詰め寄ったことがある。葬儀を終えた後の、墓地の人気のない場所でのこと。

 オレが生きてきた13年間で、最も汚い言葉だ。


 ――どうしてあなたが生きていて、ウィルが死んだの!

 

「ユイ、惑わされるな。ウィルが戻ってくるはずがない」

 ウィルは死んだ。

 生き返らせるつもりだと言うなら、世迷いごとでしかない。

 オレはユイの手を取った。

「邪魔をしないで」

 スレアが肉薄してきた。

 オレはユイの手を引く。

 再び無人となった病院に飛び込んだ。

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