10.番外編 〜桜叶&将矢wedding〜
第16話
『Welcome to our wedding
Masaya & Ouka 』
会場の入り口には、達筆な文字で書かれたウェルカムボードが立てられている。
筆で書かれた英語の文字は、とても粋な雰囲気があり、かっこ良く仕上がっていた。
それはまさに、将矢と桜叶のイメージにピッタリであった。
コンコン…
「桜叶様、新郎の将矢様がお見えです」
会場のスタッフが桜叶に声をかけた。
ウエディングドレスに身に纏う桜叶は、入り口の扉の方へ顔を向けた。
将矢「…っっ!!」
将矢が桜叶の姿を見るなり、目を見開き顔を赤くさせる。
すると、みるみる内に目が潤っていく。
「…っ、綺麗…」
将矢は詰まらせた言葉を必死に取り出す。
桜叶は小さく笑いながら言った。
「泣くの早いよ」
桜叶はハンカチを将矢に手渡す。
将矢は静かにハンカチを受け取り涙を拭う。
「将矢もカッコいい」
桜叶は微笑みながら将矢を見る。
「うぐっ…」
将矢はまたもや涙を堪えた。
そんな将矢を見て桜叶は楽しそうに笑った。
コンコン…
「よぉ!」
愛弓と菊斗がひょっこり顔を出した。
「あっちゃんと朝井くん!」
桜叶は目を丸くさせた。
「わー!桜叶、すっげぇ綺麗!やっぱ似合う」
ドレスアップした愛弓が目を輝かせながら桜叶を見た。
「ありがとう。あっちゃんもステキ」
桜叶は愛弓に微笑んだ。
「あ…ありがとう」
愛弓は照れながら呟いた。
「え、もう泣いてんの?!」
菊斗が目を丸くしながら将矢を見た。
「早ッ!」
愛弓もギョッとしながら将矢を見た。
「だって…そりゃぁ泣かずにはいられねーだろ!俺の人生の軌跡を知ってるお前らなら、分かるだろぉ?」
将矢は目を赤くしながら力説する。
そんな将矢を見た桜叶と愛弓と菊斗は、互いに顔を見合わせ笑った。
すると、菊斗が将矢に言った。
「おめでとう、将矢」
愛弓も桜叶に言う。
「おめでとう、桜叶」
桜叶と将矢は笑顔で言った。
「ありがとう」
すると、将矢が静かに言う。
「しかし、まさかお前らに2ヶ月先越されるとはなぁ…」
将矢は口を尖らせながら菊斗と愛弓を見た。
そう…菊斗と愛弓は、桜叶と将矢よりも二ヶ月早く入籍し、結婚式を挙げていた。
「恋人になったのは私達よりも後だったのにね」
桜叶は微笑みながら愛弓と菊斗を見た。
菊斗と愛弓は照れながら互いに顔を見合わせ笑みを溢した。
すると、桜叶は言った。
「同じ年に同じように恋人になって、同じ年に同じように結婚するなんて…私達ってやっぱり、相当仲良いよね」
桜叶はフッと笑う。
将矢達は皆、目を丸くさせたがら顔を見合わせ笑うと言った。
「たしかに」
すると愛弓が静かに言う。
「まぁ…これも、運命ってやつか」
桜叶達は皆、笑顔で頷いた。
--
「それでは…新郎将矢さんより、新婦桜叶さんのベールをお上げいただき、永遠の愛を込めて誓いのキスを交わしていただきましょう…」
ステンドグラスが煌びやかに輝く荘厳な空間で、将矢は緊張しながらゆっくり桜叶のベールを上げた。
白いベールから桜叶の美しい顔が見えた瞬間に、将矢はまたしても熱いものが込み上げてくるのを必死で堪えた。
目を潤ませている将矢を見た桜叶は、小さく笑みを溢した。
将矢はゆっくりと桜叶に顔を近づけ、誓いのキスを交わした。
その瞬間、割れんばかりの拍手の音が一斉に響き渡る。
そして、桜叶と将矢は客席の方へ向くと、二人で交わした輝く指輪を皆に披露した。
桜叶と将矢は、笑みを浮かべながら客席にいる人々を見渡す。
客席の前列には、一富士 純ノ介と倖加の姿があり、反対側前例には、桜叶の祖父母である倉地 一太朗と貴子の姿があった。
純ノ介の手には、将矢の実母である夏乃子の写真があり、そして一太朗の手には桜叶の実父である時央の写真があった。
二列目には菊斗と愛弓の他に、高校の文化祭では桜叶と将矢に短歌を書いて渡した霧生 冨美子の姿もあった。
皆それぞれ、笑顔を浮かべる者や目を潤ませる者、涙を流す者など、様々な表情をしながら拍手で桜叶と将矢を祝った。
「うぐっ…良かったなぁ…将矢…」
菊斗は決壊したかのように号泣していた。
愛弓はそんな菊斗を見て微笑みながら、菊斗にハンカチを手渡した。
「あいつ…泣きすぎだろ…」
将矢は菊斗を見ながらポツリと呟くと、嬉しそうに笑った。
桜叶がチラッと将矢を見ると、将矢もまた目を潤ませているようだった。
桜叶は微笑みながら愛弓の方に目を向けた。
愛弓はニッコリ笑いながら力強く拍手していた。
桜叶は嬉しそうな笑顔を愛弓に向けた。
すると…
どこからか、アゲハチョウがヒラヒラと飛んできた。
「あら…珍しいわね…。どこから入って来たのかしら…」
式場のスタッフが呆然と見上げる。
客席に座る愛弓達も皆、アゲハチョウに注目した。
「あれ、2匹飛んでる」
桜叶は、アゲハチョウがもう一匹飛んでいることに気がついた。
二匹の蝶は、客席の上を旋回した後、純ノ介と倖加の付近にやって来てヒラヒラさせた。
純ノ介と倖加は蝶に目を奪われた。
「綺麗な蝶々…」
倖加はウットリと眺めながら呟いた。
その後、二匹の蝶は桜叶の祖父母の付近をヒラヒラ飛び回った。
一太朗と貴子も目を丸くさせながら蝶を眺める。
すると、獣医になり動物や昆虫に詳しい菊斗が言った。
「あれ、オスとメスだな…」
愛弓は目を丸くさせながら菊斗を見た。
すると菊斗が続ける。
「あれはナミアゲハチョウだよ。この季節のナミアゲハは分かりやすくて、あの白っぽい方がオスで、黄色い方がメスなんだ」
菊斗は大きめの声で言った。
すると、将矢の父である純ノ介はハッとした顔をしながら、自身が手に持つ元妻の夏乃子の写真を見た。
倖加と祖父母の一太朗と貴子も、慌てて一太朗が持つ時央の写真を見た。
二匹の蝶は、桜叶と将矢の元へと飛んできた。
黄色い蝶は将矢の頭上を、白っぽい蝶は桜叶の目の前を飛ぶ。
将矢「母さん…」
桜叶「父さん…」
二人は蝶を見ながら目を潤ませ同時に呟いた。
そして…
二人は蝶に向け、同時に呟いた。
「ありがとう」
その様子を見ていた純ノ介と倖加は口元を抑えながら嗚咽した。
桜叶の祖父母である一太朗と貴子も、ハンカチで涙を拭った。
場内は、涙の雨で溢れた。
蝶はヒラヒラと桜叶と将矢の周りを一周すると、外へと続く扉の方へゆっくりと飛んで行く。
パチ…
パチパチパチ…
二匹の蝶が出口へ向け飛んで行く様子を、客席に座る愛弓達は皆、拍手をしながら見送る。
桜叶と将矢も、拍手をしながら蝶が飛んで行く様子を眺めた。
桜叶と将矢は互いに顔を見合わせた。
「来てくれたね」
桜叶はそう言うと、将矢に向けニッコリ笑った。
将矢も笑顔で頷き、蝶が飛んで行った出口の方へ顔を向けた。
--
挙式も無事に終わり、桜叶と将矢は友人達と談笑していた。
「桜叶さん達、この度はご結婚…おめでとうございます」
書道家としての道を歩み始めていた冨美子は、笑顔で桜叶達に声をかけてきた。
「ありがとう。今日は来てくれて嬉しい」
桜叶は微笑みながら冨美子を見た。
「私こそ、呼んでいただけて嬉しかったです。まさか、桜叶さん達の結婚式に呼んでもらえるなんて…夢にも思わなかったから…。また奇跡が増えた」
冨美子は嬉しそうに笑った。
「この世は奇跡の連続だからなぁ!」
将矢はニッと笑って見せた。
桜叶達は皆笑い合った。
「あ、そうそう。 素敵なウェルカムボードも作ってくれてありがとう。富美子さんの文字って、何の文字であっても素敵ね。英語も素敵」
桜叶は目を輝かせながら冨美子を見た。
「筆文字の英語って、カッケーなぁ!ありがとう、霧生さん」
将矢は笑顔で言った。
「喜んでいただけて、何よりです…」
冨美子は照れながら、ぺこりと頭を下げた。
「文化祭の時に書いてもらった霧生さんの書、今も大切に飾ってあるの。いつも眺めて元気もらってる」
桜叶は微笑みながら冨美子に言った。
「…っ!」
冨美子は目を丸くさせると、少し目を潤ませた。
すると…
冨美子は紙袋からある物を出し、桜叶達に差し出した。
「これ…。私から桜叶さん達にささやかなプレゼント。高校の時の短歌は、名前の方の漢字だったから…今回はお二人の苗字の方の漢字で作ってみたの。桜叶さんが名乗って来た苗字、全て入れてみました…」
桜叶は目を丸くさせながら、富美子から受け取った色紙を見た。
隣にいる将矢も色紙を凝視する。
『
(夜が明けて、倉の屋根瓦や地面までも輝く一筋の光が、富士の峰まで続いている)
桜叶と将矢は目を輝かせた。
冨美子は恥ずかしそうに口を開く。
「夜が明けてっていうのが、例えるなら…人生の始まりとか、何かに目覚めた瞬間を意味してて、光は道標を表してるんだけど…」
富美子はそう前置きをした後、真っ直ぐ桜叶と将矢を見て続けた。
「桜叶さん達が生まれてから…これまで歩んで来た道は、どの場所にも、必ず一筋の道標はそこにあって、その道は必ず幸せまで続いている…この先もずっと」
「富美子さん…」
桜叶が丸くさせた目は、だんだん潤いを増して行き、目の前の富美子がぼやけていく。
「幸せまで…続いている…」
将矢も呆然としながら、富美子の書を見つめた。
「お二人とも、いつも…いつまでもお幸せに」
富美子はニッコリ笑った。
「ありがとう…富美子さん…」
桜叶は涙を拭いながら笑顔で言った。
「ありがとな…霧生さん…」
将矢も目を潤ませながら、はなを啜る。
桜叶と将矢は思っていた。
例えどんな事があろうとも…病める時も、健やかなる時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も…それは必ず、幸せの道の途中である…と。
桜叶と将矢は、互いに顔を見合わせると、嬉しそうに笑った。
「そう言えば…彼が、お二人によろしく伝えてくれと言ってました」
富美子は照れながら小さく笑う。
「あ、そうだ。最近、霧生さん恋人が出来たって言ってたね!その彼が?」
桜叶は思い出したように目を丸くさせながら言う。
「あ、そうなん?良かったなぁ!」
将矢も笑顔で富美子を見た。
「はい。彼も高校時代は、お二人にお世話になったって言ってました」
富美子は頬をピンクに染めながら嬉しそうに話す。
桜叶「え?」
将矢「ん?」
桜叶と将矢はキョトンとしながら富美子を見た。
すると富美子は目を丸くさせながら口を開く。
「あれ…言ってませんでしたっけ?私の彼、折笠巧実さんなんだけど…」
富美子は顔を赤くさせた。
「折笠…」
桜叶と将矢は同時に呟いた。
「折笠先輩?!」
桜叶と将矢はまたもや同時に呟き驚き慄く。
桜叶は目を丸くさせながら富美子に明るい顔を向けた。
一方の将矢は、何故か険しい顔でファイティングポーズをして見せる。
そんな二人を見て富美子は小さく笑うと、静かに口を開く。
「巧実さんとは、書道の展示会で会ったの。私が出展した書の前で、ずっと動かない人がいたから…気になって声をかけてみたんです…」
富美子は照れた表情をさせた。
すると、桜叶が静かに口を開く。
「折笠先輩も、"曙光将いる嚆矢のごとし"だったのかもね」
「え…」
富美子は目を丸くさせた。
将矢も驚いたように桜叶を見る。
「霧生さんの書に出会ったのをきっかけに、まるで世界が明るくなっていくかのように…これからどんどん良い事が起こるような気がする…そんな嬉しさを感じたのかも、折笠先輩」
桜叶は優しい眼差しで富美子を見た。
「桜叶さん…」
富美子は目を潤ませた。
「俺らと同じだな」
将矢はそう言うと、桜叶にニカッと笑った。
桜叶も将矢と目を合わせ嬉しそうに笑うと呟いた。
「ほんと、ロマンチックね」
桜叶の言葉に、将矢と富美子は満面の笑みを浮かべた。
---
「それじゃあ私、もう出るけど…」
「俺ももう少ししたら出る」
「今日の夕飯何が良い?」
「桜叶」
「ちょっと…二言目にはそれ言うの辞めてくれる?」
「じゃあ、今いただきます…。チュ…」
「…っっ!」
温かい光が差し込む玄関で、毎朝の日課となっている桜叶と将矢の"合会話"する様子を、富美子の達筆な文字で書かれた色褪せない二つの色紙が微笑ましく眺めている。
玄関では桜叶のリクエストで将矢が取り付けたステンドグラスが、毎朝二人を照らしている。
ステンドグラスのグラデーションカラーに身を包みながら交わす二人の口づけは、結婚式で誓いのキスを交わす…あの時の二人と変わらない姿であった。
-おわり-
チェンジの女神 星ヶ丘 彩日 @iroka_314
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