第6話 間違いない

 王都の地下図書館で手に入れた地図を頼りに、俺たちは次の目的地「神殿」へ向かうことにした。ゾンビ研究者の言葉を信じるなら、そこには純白のエリクサーを解放する「鍵」があるという。


 しかし、神殿があるという王都の中央部は、完全ゾンビの巣窟だ。


「これ、本当に行くのか……?」


 地図を眺めながら弱音を吐く俺に、ザイドが鋭い声で言った。


「行くしかないだろ。お前が治療法を見つけるためにこの世界に呼ばれたんだ。覚悟を決めろ。」


「いや、そうは言うけど……俺、ただの高校生だし……。」


「それでも、この世界を救いたいって思うなら、一歩踏み出すしかないんだよ。」


 ミナの言葉が妙に胸に響いた。俺は深呼吸をして立ち上がる。


「……わかった。行こう。」

 王都の中央に向かう道は危険で満ちていた。崩れた建物の間を抜けるたびに、完全ゾンビたちが徘徊している。ザイドが先頭で慎重に進み、ミナが後方で警戒する。


「ねえ、アキラ。あんた、なんでこの世界を救おうと思うの?」


 突然のミナの質問に、一瞬答えが詰まる。


「……正直、自分でもよくわかんない。でも、ここに来たからには何かしないと、って思うんだ。」


「そっか。まあ、あんたらしい答えだね。」


「どういう意味だよ、それ……。」


 ミナが小さく笑ったその時――。


「待て!」


 ザイドが低く叫び、俺たちを制した。彼が指さした先には、巨大な広場が広がっていた。その中央に、異様に大きな門が見える。


「……あれが神殿の入り口か?」


「間違いない。でも、気をつけろ。周りに何かいる……。」


 ザイドの警告が現実になるのは、ほんの数秒後だった。広場に足を踏み入れた瞬間、地面が揺れ、大きな影が動いた。


「グォォォォォ!!」


 そこに現れたのは、人間を遥かに超える大きさの巨体。ゾンビとは明らかに違う姿。鎧をまとい、両手には巨大な剣を持っている。


「……なんだよ、あれ!? ゾンビじゃないじゃん!」


「おそらく、神殿を守るために作られた魔法のゴーレムだ!」


 ザイドが剣を構える。だが、その大きさと迫力に、俺は完全に腰が抜けていた。


「どうする!? 勝てるのか、あんなの!?」


「やるしかない。俺が正面から引きつける! ミナ、お前はアキラを連れて隙を探せ!」


 ザイドはそう言うと、迷うことなくゴーレムに突進した。


 ザイドがゴーレムの注意を引いている間、俺とミナは周りを観察していた。


「どうする? あれに正面から挑むのは無理だよ。」


「いや、あいつにだって弱点があるはずだ……!」


 目を凝らしてゴーレムを見ていると、その胸部に何か光るものが埋め込まれているのに気づいた。


「あれだ! 胸の光ってる部分が弱点なんじゃないか?」


「確かに……でも、どうやってそこを狙う?」


 俺たちが作戦を考えている間も、ザイドはゴーレムの剣をかわし続けていた。しかし、その動きにも少しずつ限界が見え始めている。


「仕方ない、俺が行く!」


 俺は決死の覚悟でゴーレムの側面に回り込んだ。そして、手にした小さなナイフで思い切りその脚に切りつける。


「くらえ!」


 ゴーレムが一瞬動きを止め、その隙にミナが叫ぶ。


「今だ! ザイド、胸を狙って!」


 ザイドが一気に跳躍し、剣をゴーレムの胸部に突き刺した。刹那、ゴーレムの全身が光り輝き、動きを止める。


「……終わった、のか?」


「やった……やったぞ!」


 俺たちは息を切らしながら、ついにゴーレムを倒した達成感に浸った。


 ゴーレムを倒した俺たちは、ついに神殿の扉を開ける。中には、異様な静けさが漂い、無数の古びた魔法陣が床に描かれていた。


「ここが……神殿か。」


 中央には小さな台座があり、その上に奇妙な鍵の形をした装置が置かれていた。


「これが、エリクサーの鍵……。」


 ミナが慎重にそれを手に取る。だが、その瞬間――。


「待て! お前たち……そこに触れるな。」


 低く響く声が神殿の奥から聞こえた。現れたのは、黒いフードを被った謎の人物。その目には鋭い光が宿っている。


「……誰だ!? 何者だ!」


 ザイドが剣を構えるが、相手は動じない。代わりにゆっくりとフードを外した。


「俺は……この世界のすべてを知る者だ。そして、お前たちの行動が、この世界の滅びを加速させることになると知っている。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界in・The・ゾンビ ワールド 〜王様から「この世界を救ってくれ」と頼まれたけど、もうすでに手遅れでした〜 @とむ @miwaka_sai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ