第19話 夢見の導き

 穢れの実態はヴェルマーに吸い込まれるように戻った。


「よくもロイ君を! よくもぉおおお!!」


 レナは限界を超えてマナ闘気術のマナ濃度を上げる。

 限界を超えたマナ濃度のレナの現在の強さは、Sクラスの冒険者ですら凌駕しているはずだった。


「喰ぅらぇえええええ!!!」


 レナは大きく飛び上がり右手に濃縮したマナを集中させてそれを上空からヴェルマーに放った。


 凄まじい爆発音と衝撃音の後に、まるで隕石が衝突したかのような巨大なクレーターがサイモンの邸宅だった場所に生まれた。

 サイモンの邸宅は攻撃による衝撃によって吹き飛び、辺りは最初から何もなかったかのような平地へと変わっていた。


「そんな…………今の一撃でも駄目なの!?」


 土煙が消えた後に現れたのは無傷のヴェルマーだった。

 彼は何事もなかったかのようにクレーターを一飛してレナの前で着地する。


 あっという間の出来事だった。

 彼女は彼女の反応速度を超えた、顔面への前拳、下段蹴り、腹部へと殴り、顔面への右フックと矢継ぎ早の連撃を食らった。

 それによって彼女の顔面から発せられた鮮血が宙を舞う。


「ゔっ……」


 彼女は膝をついた。

 攻撃を目で追えれてないし、鋼鉄とも言える彼女に対しての攻撃も驚くほど強力だった。

 だがそこまでの一方的な攻撃でも彼女の心の火を消すことはできなかった。


「くぅそおおお!!!」


 彼女はすぐさま立ち上がり、ヴェルマーに攻撃を行う。

 しかし、その殴りも蹴りも、彼に軽々と躱され、逆にカウンターを喰らう。

 一撃カウンターを喰らった後は先程と同じように、ヴェルマーは容赦なく彼女に対して連撃を加えた。

 

 いつしか彼女の美しい顔面は血だらけになり、顔中があざで腫れ上がっていた。

 片腕は折れ、右膝も立てないようなダメージを負っていた。

 それでも尚、彼女の戦意は尽きていなかった。

 近くの机に掴まりなんとか立ち上がろうとしている。


「ゔゔ……」


 そこで俺の昏倒していた意識が戻る。

 

「ロイ君!」


 レナはそう言った後に掴まっていた机からずり落ちて地面に倒れた。

 彼女は腫れ上がった痛々しい顔で這いながらこちらに向かってくる。

 俺はすぐさま彼女に駆け寄る。


「レナ姉ちゃん、どうしたの?」

「ごめんねロイ君……私がいるのにごめんね……」


 レナは涙を流しながら詫びる。

 こんなにまでなっているのに彼女はなんでここまで俺を気遣ってくれるのだろうか?

 

 胸中にそんな疑問が生じた時のことだ。

 俺の腕につけている夢見の腕輪が強い輝きを発しだして、その光に俺が飲み込まれた後のことだった。


 見知らぬ、おそらく貴族の邸宅の庭であろう場所に俺は立っていた。

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自己中な幼馴染に浮気された最強サレ冒険者 〜一人になって傷心を癒やす旅に出たはずなのに、周りの美女がほっといてくれない件 コレゼン @korezen

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