第15話 天界のクレーマー
「それでは次の方どうぞー」
病院の待合室で待っている患者を呼ぶかのように審問官の男はエミリアを呼んだ。
彼女はかれこれ、そこに案内されてから3日は待たされていた。
死んでいるから空腹も眠気も感じないが、待たされることのイライラは感じる。
「遅いのだ! 一体いつまで待たすつもりなのだ!」
「まあまあそう怒らないで。えっと…………ああ、最近死んだクレーマーの方ですね」
「誰がクレーマーなのだ!」
審問官は円縁の眼鏡を時折つかみながら何かの書類に目を通していた。
「えっと……あはははは。戦闘中に関係がないような木の破片が頭に当たって死んだんですかぁ。ぷぷっ、間抜けですねえー」
審問官はそう笑いながら言う。
その様を見たエミリアは純粋な殺意が湧いた。
「お前…………舐めてると殺すのだ……」
「まあまあ、死んだのだから怒ってもしょうがないですよ。それでクレーム内容はなんですか?」
「クレームではないのだ! 物申したいだけなのだ!」
「はいはい、それで?」
審問官は聞き分けの悪い子供に接するようにかのように言う。
その態度もまたエミリアをイラッとさせた。
「私は登場してから5行くらいしか出番がなかったのだ……」
「はあ? …………一体、何を言ってるんですか?」
「だから私は物語に登場して5行くらいしか出番がなかったと言ってるのだ! ティアにフィオナは一杯登場しているのに不公平なのだ! きっと神の野郎が私が好みじゃないのだ!」
「ちょっと……あなたそれ禁じ手ですよ……」
流石の審問官も困って言う。
今までいろんな死者が訪れてきたが、こんなメタメタなことを言ってきたのはエミリアがはじめてだった。
「神の野郎に聞くのだ。なんで私はこんなに登場が少なかったのかと。後、そんな私を死なせた理由も聞きたいのだ!」
審問官は困った様子ですぐには答えなかったが、しばらくして言った。
「…………しょうがないですね。特別ですよ? じゃあ、ちょっと聞いてみますね」
審問官は目を瞑り、黙り込む。
それはまるで瞑想をしているようにも見えた。
しばらくすると彼は目を開いて言った。
「出番がなかったのは忘れてたそうです」
「ふざけるな! なのだ。なんで自分が生み出した登場人物をそんなにすぐに忘れられるのだ! お前は痴呆症なのかなのだ!」
「それも伝えます?」
「当然なのだ!」
「じゃあ、死なせた理由ですけど…………知らん、だそうです」
「…………知らん!? 開き直るつもりかなのだぁ!! 神のクソ野郎をここに連れてくるのだぁ!!」
エミリアは顔を真っ赤にして怒る。
「まあまあ、落ち着いて。ちょっとさっきの言葉も伝えてみますね」
そういうと審問官はまた神とやり取りをはじめた。
「……えっと、神様の返答をお伝えしますね?」
明らかに審問官は気が乗らない様子で前置きをした。
「誰が痴呆症だ。大体忘れられるような魅力的なキャラクターじゃないお前が悪いんだろ。悔しかったら女磨きでもして俺の気を引いてみろ、だそうです」
エミリアは怒りでプルプルと震える。
「じゃあ次はこう伝えるのだ。なんで私が童貞クソ陰キャのお前の気を引かないといけないのだ。女心を一ミリも理解していないようなお前が神とはみんな可哀想なのだ、と」
「……はい、少々お待ち下さいね」
そう言うと審問官はまた目を閉じる。
すると途中で「えっ、ほんとにそんなこと言っていいんですか?」とボソリと言う。
しばらくして目を開きまた神の言葉を伝える。
「俺は確かにいい年して素人童貞かもしれん。だけど、だからこそ書けるいい物語もあるんだ!、だそうです」
「…………」
エミリア一呼吸おいた後に一気にまくし立てる。
「なんなのだその童貞
「じゃ、じゃあ、それも伝えますね」
審問官は取り出したハンカチで額の汗を拭いながら答えた。
しばらくして神とのやり取りを終えた審問官は疲れた様子で言った。
「もういい、だそうです」
「はあ!? なんなのだそれは?」
「なんか拗ねてます」
「なんで拗ねるのだ! 意味が分からないのだ!」
「生き返らしてやるから、もう俺に文句言ってくんな、だとのことです」
「じゃあ最初から殺すなのだ!」
「あのすいません!」
そこで審問官の元にスタッフの一人が駆け寄り何やら書類を渡して、ごそごそと耳打ちをした。
「あのー、大変言いにくいのですが……」
審問官は態度を変えて下手になって言う。
「なんなのだ?」
「あなた元々死んでなかったようです」
「はあ?」
「弾みで幽体離脱しただけのところを天使たちが勘違いしてしまったようで。ははは」
審問官は引きつりながら笑う。
エミリアは引きつるくらいなら笑わなければいいのに思ったが、口にはしなかった。
「じゃあ、さっさと元に戻すのだ!」
「はい、承知しました。あっ、さっきの暴言は詫びておきます?」
おそらく神に対して、なんで殺したのかと乱暴な言葉で非難したことを言っているのだろう。
エミリアはクソ神に詫びるつもりなど一ミリもなかった。
「なんで私がクソ野郎に詫びるのだ。これに凝りて私を殺すような真似はしないように強く伝えておくのだ。あっ、言っておくがこれは振りではないのだ!」
「はいはい、分かってますよ。その辺は流石の私でも空気読めますから、ちゃんと伝えておきます。押すなよ、押すなよのやつですよね。それでは現世をまたお楽しみくださいー」
「ぜんぜん違うのだ! これは振りでは――」
最後、訴えかけようとするところで意識が途絶え、次に意識が戻ると、そこは戦闘真っ最中のサイモンの邸宅の場面だった。
頭の痛みを感じ、破片が直撃してから数秒くらいの場面と思われた。
エミリアは急いで自分に回復魔法をかけながら、仲間たちの後方支援へと回った。
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