第14話 走馬灯

「い、いきなりなんのようでゅふ! アポなしで無礼でゅふ!」


 サイモンは驚きながらも抗議する。

 しかし、怒り心頭のレナたちにそんな言葉は届かない。


「黙りなさい、このドブネズミが! バカ女どもですって? 誰が誰を騙したのかしっかりと思い知らせて上げるわ!」

「まさかお前らさっきの会話を聞いてたでゅふか? 許されないでゅふ、プライバシーの侵害でゅふ!」


 するとそこでレナは近くにあった椅子をサイモンに向かって蹴り飛ばす。

 飛ばされた椅子は真っ直ぐサイモンに向かっていくが、直撃する直前でヴェルマーの裏拳に粉々に破壊された。


「やれやれ、ただ酒飲みに来ただけだったってのに仕事の時間かよ」


 ヴェルマーはグラスに残っていた酒を飲み干した。


「ひぃいいーー。ヴェルマー頼んだでゅふぅ」


 サイモンは震えながら部屋の奥へ引っ込む。


「んじゃあ、おっぱじめるか。野郎ども! 遠慮はいらねえ、可愛いい姉ちゃんたちのつらをぐちゃぐちゃにしちまいな!」


 そう言ってサイモンもまた近くにあった椅子をレナに向かって蹴飛ばす。

 その椅子もレナがぶん殴ることによって粉々に破壊された。

 それを合図に両陣営はお互いに飛びかかり、戦闘がはじまった。



 


 その時――――


 ヒーラーのエミリアは戦闘の様子を天井近くで眺めている自分に気がつく。


「あれ? どうしたのだ……」


 ついさっきまで自分もあの戦闘の輪に加わろうとしていたはずだ。

 よく見るとエミリア自身が戦闘の後方で倒れているのが見えた。

 なんで自分があそこにいるのだ……?


「待つのだ……よく考えてみると……椅子の破片が僕の頭に直撃したのだ……」


 するとエミリアの周りをラッパをもった白い衣を纏った天使のようなものたちが取り囲む。

 そこに来てエミリアはやっと自分が死んだらしいことに気づく。


「はあ? ありえないのだ! なんで椅子の破片みたいな流れ弾で死ぬのだ!」


 そこで天使たちは何かのセレモニーなのか、ラッパを吹き鳴らす。

 しかもそのラッパの曲の演奏は微妙にズレていた。


「人が死んだ大変な時にうるさいのだ! それに死者を迎えるならもっと練習してからくるのだ!」


 すると天使たちはやれやれとでも言うふうに肩をすくめた。

 その人を小馬鹿にしたような態度が更にエミリアの油に火を注いだ。


「お前ら舐めてんのかなのだ! こっちは死んでナーバスになってるのだ! 空気を読んで気を使えなのだ!」


 そこでエミリアは一人の天使が紙芝居をはじめたことに気づく。

 その天使は紙を一枚ずつゆっくりと変えていた。

 そこには下手くそな幼い子供でもかけそうな絵が描かれている。

 なんでこんなものを見せられているのだろう?


 だが、ある可能性に思い当たった時、その事実は更にエミリアの火に油を注いだ。


「……おい、まさかこの下手くそな紙芝居は、私の人生の走馬灯を表現しているつもりじゃないのだぁ?」


 すると天使はよく分かったなあとでも言うように、笑顔でうんうんと頷いた。


「ふざけるんじゃないのだ! 安っぽい紙芝居に下手くそな演奏に、私の人生は一体なんなのだ!」


 すると天使たちはまあまあとジェスチャーをしてエミリアをなだめる。

 彼らは一貫して無言で黙ったままだった。

 おそらく喋れないのだろう。

 

「……ふん、じゃあ死んだってことは神様がいるのだ? いるならそこへ案内するのだ」


 すると天使たちは困ったようにお互い顔を向け合っている。


「なんなのだ? 神様はいないのだ?」

「いえ、神様はいますが我々しもじもの者では会えません」

「なんだ、喋れるなら最初から喋れなのだ! なんで喋らないのだ!」

「喋ったら、クレーマーを調子づかせるので……」

「誰がクレーマーなのだ! お前らさっきからいい加減にするのだ!!」


 エミリアは烈火の如く怒る。

 その様を見た天使は、ほれ見たことかと天使たちと頷きあった。


「……それでお前らの上司はいるのだ?」

「審問官をされている方ならおられますけど……」

「そこに案内するのだ! 一言物申したいのだ!」


 それではと天使たちに連れられて、エミリアはぶつぶつと不満を吐露しながら天界へと向かった。

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