第11話 秘薬の素材
「霊薬の結晶の錬成に必要な素材の一つとして、浄氷の結晶というアイスリヴァイアサンから得られる素材があるの。それをレナ姉さんは集めてくれてるのよ。そして霊薬の結晶の錬成のレシピは商人のサイモンによって独占されているの。だからレナ姉さんはサイモンの横暴さも我慢してくれているの。私はレナ姉さんに頭が上がらないわ」
なるほど。
なら本来気が短いレナ姉ちゃんがサイモンのような男に従っているのも理解ができる。
「私も姉さんには頭が上がらないっす」
いつの間にかフィオナもこちらに来ていた。
「あんたが頭が上がらないのは、レナ姉さんに借金の肩代わりしてもらってるからでしょ」
「ち、違うっすよ。私は単純に姉さんの人格的な素晴らしさに……ロイ君なんて顔してるんすか。ゴミを見るような目で私を見ないで欲しいっす」
「あ、いや……」
気持ちが顔に出ていたか。俺は即座に否定できない。
「ゴミなんだから、ゴミを見る目になるのはしょうがないでしょ」
「それは確かにーー、はははは…………ってぶっ飛ばすっすよ、ティア!」
その時、サイモンはゾロゾロと取り巻きを引き連れてギルドを出ようとしていた。
俺たちとすれ違い間際にこちらに視線を向けて声をかけてきた。
「おい、さっきレナに言った俺のメイドになるって話だけど、お前ら二人なら考えてやってもいいでゅふよ。ひょっひょっひょっ」
サイモンは醜悪な視線をティアとフィオナに向けて、下卑た笑い声を上げながら言った。
「申し訳ないんですけど私たちいろいろ忙しくて――」
そうティアが丁重に断りを入れようとした時だった。
「鏡を見てものを言うっす! 一体どんなもの好きがドブネズミのメイドになるっすか? 気持ちの悪い視線をこちらに向けるんじゃねえっす!!」
フィオナは怒りを爆発させて言う。
一方のサイモンのその顔を赤くさせて言い返す。
「貴様は誰にものを言ってるつもりでゅふか? 調子に乗っているとこのギルドにいられないようにしてやるでゅふ!」
「上等っす!」
フィオナの手にマナが集中して輝き出す。
彼女は薄っすらと笑みを浮かべ、その目には狂気の色が浮かんでいた。
それに伴い、サイモンのボディーガードたちがそれぞれの得物を素早く抜きさった。
辺りに一気に緊張感が漂う。
そこでティアがフィオナの口を塞いで、羽交い締めにした。
「すみません、こいつちょっと頭おかしいんです。狂犬のフィオナってご存知ないですか?」
「んむぅーーー」
フィオナは手足をバタバタとさせるが怪力のティアに力は敵わないのだろう。
びくともしないようだった。
サイモンも矛を収めて、ボディーガードたちに合図をして得物を収めさせる。
「こいつが、喧嘩屋のファイナでゅふか……駄犬はしっかりしつけとくでゅふ!」
フィオナは額に青筋をたてて暴れるが、ティアにしっかりと抑え込まれていた。
「はい、すみません。きつく言い聞かせておきますので……」
「ふん!」
サイモンは大きな鼻息を一つ放った後にギルドを去っていこうとする。
そこで今度は俺がサイモンに言った。
「あのアイスリヴァイアサンですけど、どこに生息してるんですか? 俺が討伐して素材獲ってきます」
すると一瞬の間が空いた後に、サイモンとボディーガードたちは大声で笑う。
「ひょっひょっひょっ! お前みたいなクソガキにアイスリヴァイアサンが討伐できるはずがないでゅふ! ベテラン以上のB級が10人以上集まって討伐するような大物でゅふよ。単独で討伐できるのはレナだからでゅふ。うちに帰ってママのおっぱいでも飲んでるでゅふ!」
「ぐっ……」
なんで俺はこんなにも侮られるのだろうか。
冒険者になってもう4年以上経つし、実力もそれなりにあると思うんだけどな。
「ちょっと! 私たちのことを悪く言うのはいいけどロイ君のことを悪くいうのは止めてください!」
「そうっす! こう見えてこの子は強いっす!」
下手に出ていたティアは一転、サイモンに抗議してくれた。
「ひょっひょっひょっ。僕はお姉ちゃんにかばってもらうでゅふか! まあ、アイスリヴァイアサンを討伐できるものなら討伐してみるでゅふ。目撃例が少ないレアな魔物でゅふが、今回は珍しく2例の目撃があったでゅふ。運が良ければもう一体いるでゅふ」
サイモンは憎たらしい顔をしながら言った。
「生息している場所は?」
「この町の近くにある白銀の森でゅふ。楽しみにしてるでゅふよ、ひょっひょっひょっ」
サイモンは最後、気に障る笑い声を響かせながらギルドを出ていった。
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